2019 Fiscal Year Research-status Report
相続にみる日本中世の寺院社会と公家・武家社会との関係性 ―付法状に着目して―
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19K20826
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
巽 昌子 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 特別研究員 (90829326)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 相続 / 付法状 / 処分状 / 日本中世史 / 寺院・公家・武家社会 / 比較研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は寺院社会の独自性の解明と、公家・武家社会との関係性の追究を通して、日本中世における寺院社会の位置づけに再検討を加えるものである。 はじめに日本中世の寺院社会における法流と院家の相続を詳細にたどり、寺院社会の特質を捉える。次にそこで詳らかになった寺院社会の独自性を基に、寺院社会と公家・武家社会との関係性を探る。ここでは寺院社会と公家・武家社会の相続の比較、および疑似的「家」の比較という、ふたつの観点からの検討を行う。 上記の目的の達成に向けて、昨年度は法流と院家に着目することにより寺院社会の特質、独自性を解明し、公家・武家社会の相続との比較に臨むための基礎を形成した。そこで詳らかになった寺院社会の特質を基に、研究期間二年目にあたる本年度は、寺院社会と公家・武家社会との関係性の探究を試みた。具体的には寺院社会の相続時に用いられた付法状と、公家・武家社会の相続時に作成された処分状との比較を行い、その研究成果は令和元年度 育志賞研究発表会(2020年3月)にて公表した。 加えてこれまでは主たる検討対象を醍醐寺としていたが、それに加えて東寺の事例にも視野を広げ、『東寺執行日記』を中心に相続に関わる記事を収集し、来年度以降実施する研究の基礎固めを開始した。本研究は東京大学遠藤基郎教授が代表の研究課題「日本中近世寺社<記録>論の構築」にも関わるものであり、研究会にて報告も行った。 このほか寺院社会と武家社会における疑似的「家」の比較を行うため、戦国大名の分国法(戦国家法)にみられる寄親・寄子制に焦点を当てた考察にも取り組み、朝日大学公開講座(2019年9月)にて招待講演を行った。本講座では講演に加えて、東京大学本郷和人教授とともに岐阜県内の高校生との公開ディスカッションに臨むという貴重な機会を得ることができ、研究成果のアウトリーチ活動という観点からも非常に意義深いものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は法流と院家に着目することにより寺院社会の特質、独自性を解明し、公家・武家社会の相続との比較に臨むための基礎を形成した。殊に付法状固有の役割に着目し、公家・武家社会とは異なる寺院社会の特質を捉え、その上で公家・武家社会との関わりが強まる南北朝・室町期以降の事例に焦点を当て、疑似的「家」である院家の変容を探究した。 この成果を踏まえて今年度は、寺院社会と公家・武家社会の比較および両社会の関係性の追究に取り組むこととし、具体的な研究計画としては、はじめに①寺院社会と公家・武家社会の相続について、付法状と処分状を基にした比較検討を行うことにした。続いて②両社会の疑似的「家」の比較に向けて、武家社会にみられた寄親・寄子制について考察を加えることを目指した。 上記の計画に即して研究を進め、得られた成果は下記の通りである。 まず①付法状と処分状を軸に、寺院社会と公家・武家社会における相続を比較し、令和元年度 育志賞研究発表会(2020年3月)にて「日本中世の処分状と付法状の比較検討」との発表を行った。次に②両社会の疑似的「家」を比較するため、戦国大名の分国法にみられる寄親・寄子制に着目し、朝日大学公開講座(2019年9月)にて「古文書からみる分国支配」との招待講演を行った。本講座では講演に加えて、東京大学の本郷和人教授とともに岐阜県内の高校生との公開ディスカッションにも臨み、高校生からの質問に答えるなど研究成果のアウトリーチ活動の観点からも非常に有意義な経験となった。一方でこれまで主たる検討対象としていた醍醐寺に加えて東寺にも視野を広げ、『東寺執行日記』を中心に相続に関わる記事を収集し、来年度以降実施する研究の基礎固めを開始した。 以上のことから、来年度にかけて積み残した課題もあるものの、研究計画はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は寺院社会と公家・武家社会の比較および両社会の関係性の追究に取り組むために、相続と疑似的「家」という、ふたつの観点から両社会の比較検討を実施した。来年度はこれらの成果を論文にまとめるなど、より広く公開することを活動の中心とする。さらには日本中世における寺院社会の位置づけに再検討を加えるという本課題の最終目的の達成に向けて、考察の深化を目指す。 はじめに付法状と処分状を基にした、寺院社会と公家・武家社会の相続の比較検討の結果を論文にまとめる。両文書の比較を通して、寺院社会と公家・武家社会における相続の共通点と相違点、さらには両社会の特質を解明する。続いて、相続時における朝廷・幕府からの安堵に注目する。引き続き付法状を基に、醍醐寺と世俗権力とのつながりを捉えていく。醍醐寺において、各院家と世俗権力との関わりが深まる時期が両統迭立期から南北朝期であるため、この時期の安堵を基に世俗社会との関係性を明らかにし、寺内における院家の上下関係について考察を加えたい。具体的には三宝院や報恩院等の事例からその様相を詳らかにする。 次に寺院社会における法流と、武家社会にみられる寄親・寄子制といった疑似的「家」を比較することにより、それぞれの社会の特質を捉えていく。血縁に基づかない疑似的「家」の検討に関しては、芸能集団をはじめとした様々な集団との比較も有益と考えられることから、昨年度実施した公開シンポジウム「「継承」の比較史 ―伝えられるモノと文化― 」(2019年2月)で得られた隣接分野の研究者とのネットワークも活かしながら、研究の発展を目指していく。 さらに『東寺執行日記』を中心に、東寺でなされた相続の在り方を探る。これまでみてきた醍醐寺に加えて東寺を視野に入れることにより、日本中世における寺院社会の役割や位置づけが一層明確になることが期待される。
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Causes of Carryover |
本来であれば今年度が補助事業の最終年度であったが、諸般の事情により研究活動時間が大きく制限されたため最終目的に達することができず、来年度まで補助事業期間を延長することになった。 繰り越した助成金により、今年度実施に至らなかった研究課題に取り組み、当初の研究目標の達成を目指す。
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Research Products
(4 results)