2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K20828
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松本 充弘 神戸大学, 人文学研究科, 特命助教 (10824518)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 在郷町 / 陣屋元 / 添知 / 平野郷町 / 古河藩 / 調達銀 / 天保上知令 / 被災資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も、前年度に続いてコロナ禍による制約下での研究を余儀なくされた。しかし、前年度の中止を経て2021年6月にオンライン実施された大阪歴史学会大会の近世史部会において報告機会をいただき、「陣屋元在郷町」という視角から平野郷町の郷町運営と領主支配について検討した大会報告論文を公表することができた。 大会報告論文で分析対象とした時期は、土井氏が入封する宝暦末年から天保期までで、安政期における郷町改革の前提となる。この論考では、平野郷町に陣屋が開設された天明元年(1781)を契機として郷町運営の中核である惣年寄に新たな担い手が登用されるとともに、古河藩による文政度の調達銀賦課を経て、平野郷町が上方所領における藩政の拠点として位置づけられていくことを明らかにした。また、老中領として天保上知令の公布と撤回の渦中に見舞われた平野郷町では、調達銀処理をめぐる惣会所財政への疑惑を生じ、幕末に至るまで運営上の桎梏となったことを指摘し、安政期への展望を示した。前年度までの研究成果と合わせて、幕閣の要職を担う関東譜代藩と上方との関わり方として、役知や添知などの飛地領と大坂町人社会などの諸要素を見出すことができ、さらにそれらの中核に「陣屋元在郷町」たる平野郷町が位置づいていたことも明確になってきた。 このほか、2018年台風21号被害がきっかけとなった大阪市平野区における被災資料保全について、大阪歴史科学協議会で報告した内容を『歴史科学』に掲載していただくことができた。被災資料は平野郷町の個別町における住民の生業や、戦前・戦中の生活を物語るものであり、歴史資料ネットワークにおいて展開されている諸活動とも連携を図りながら、整理・解読・活用を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大阪歴史学会における大会報告を経て、少なくとも平野郷町を「陣屋元在郷町」として分析する視点は確立することができたと考えている。「研究実績の概要」でも言及した通り、前年度までの研究成果と合わせて、幕閣の要職を担う関東譜代藩と上方との関わり方として役知や添知などの飛地領と大坂町人社会などの諸要素を見出すことができ、さらにそれらの中核に「陣屋元在郷町」たる平野郷町が位置づいていたことも明確になってきた。以上の事柄を踏まえて「おおむね順調に進展している」と判断したい。ただ、コロナ禍以前に「平野歴史民俗研究会」や「歴史資料ネットワーク」と連携して継続していた被災資料整理や新出の史料群の整理が滞っており、補助期間の延長を申請した(2022年4月現在、史料ネット主催の史料講読のみオンライン上で継続)。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの成果は、主に土井氏が古河藩に再封されて平野郷町を所領に加えることとなった宝暦末年から、天保期までの時期を分析対象としたものであった。今後の研究では、当初の目標としていた安政期の郷町改革に関する分析に取り組みたいと考えている。具体的には天保上知令によって平野郷町や畿内地域社会が蒙ることとなった影響についての検討と、安政期の郷町改革の過程についての検討をおこない、論考化を目指す。また、現在本務校で取り組んでいる大阪府八尾市や兵庫県丹波篠山市における自治体史編纂で得られた成果も踏まえつつ、近世後期の大坂周辺地域における譜代大名と在郷町・村の関係についての知見を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
2018年の台風21号被害を契機に整理を手掛けている史料群や、その他の新出史料群については、コロナ禍に伴う行動上の制約を受けて整理が滞っている面があり、補助期間の延長を申請した。未だに県境を跨いだ史料調査が困難な時節でもあるため、今後は現在整理中の史料群に関わる目録集の取りまとめのために助成金を使用したいと考えている。
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Research Products
(5 results)