2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H05625
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
高橋 秀樹 國學院大學, 文学部, 准教授 (70821990)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 吾妻鏡 / 鎌倉幕府 |
Outline of Annual Research Achievements |
鎌倉幕府の歴史書『吾妻鏡』は、日本中世史研究の最重要史料とされながらも、その研究は遅れている。直接引用されている文書や公家日記以外の原史料については、探求の方法さえも確立していない。信憑性の高い原史料に基づく記事と編者によって創作された記事が混在したまま、鎌倉時代政治史の基本史料として使われているのが現状である。しかもほとんどの研究は質の低い活字本に依拠していて、諸本の異同に関心を払っていない。 本研究は、『吾妻鏡』各記事の情報毎に原史料の分析を行い、記録・文書などの信憑性の高い原史料に拠る記事とそれ以外の情報源が特定できないような創作記事とを区別する『吾妻鏡』原史料探求の方法を確立させる。その情報分析の成果に基づき、編者の創作部分を排除して、質の高い情報のみに基づいて政治的事件の推移を復元し、北条氏による他氏排斥・将軍追放という単純な図式で捉えられてきた鎌倉時代政治史を再構築する。 本年度は、まず、頼朝将軍記のうち、文治4年(1188)から建久2年(1191)について、吉川本(吉川所蔵館所蔵)を底本として、北条本(国立公文書館所蔵)・島津本(東京大学史料編纂所所蔵)・毛利本(明治大学図書館所蔵)・三条西本『吾妻鏡抜書』(宮内庁書陵部所蔵)・『文治以来記録』(尊経閣文書所蔵)の諸本で対校した校訂本文を作成した。 つづいて、頼経将軍記・宗尊将軍記記事の原史料分析を行い、幕府内の通達文書や寺社・諸家の権利関係文書を原史料とする本文記事を抽出して分析した。その結果、文書が有する情報以上の情報を加える形で本文記事が作成されることはほどんどないこと(一部文書裏書等の書き入れを加えたとみられる記事はある)、文書の指出人や宛所が命令主体・客体として記されることが多いことなど、ある程度作文方法のパターン化ができることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度とはいうものの、8月末の採択からの研究期間が実質的には7ヶ月しかなく、さらに大学教員の初年度で、授業準備等に予想以上の時間を要したため、研究時間を確保するのが難しかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度に終了することができなかった頼朝将軍記の一部、頼家将軍記・実朝将軍記の原史料分析から始める。その際には、ある程度確実に原史料が想定できるような、文書を原史料とする記事、記録を原史料とする記事を抽出する方法をとることとする。 それに引き続き、原史料分析の成果を踏まえた政治的事件の再検討を行う。1246年の「寛元の政変」や1213 年の和田合戦など北条氏による他氏排斥とされる事件を対象にする予定である。 質の高い原史料に拠る記事とそうではない記事に峻別した上で、創作部分を排除し、質の高い情報のみに基づいて事件の推移を復元する。 事件の復元に際しては、公家日記に書き留められている幕府の事件当時の公式見解(幕府機関を通じて京都の朝廷に伝えられたもの)との違いに着目したい。さらには、これまで『吾妻鏡』の分脈の中で北条氏による他氏排斥、将軍追放という単純な図式で捉えられてきた事件の歴史像を再構築したい。
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Research Products
(5 results)