2018 Fiscal Year Annual Research Report
植民地台湾のインフラ(港湾・河川事業)にみる「公共」のあり方と植民地的特質
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18H05626
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
清水 美里 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (70785550)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 台湾 / 植民地 / 社会資本 / 水資源 / 近代 / 河川 / 水利 / 港湾 |
Outline of Annual Research Achievements |
旧植民地地域のなかには、植民地時代に整備されたインフラ設備を脱植民地化後も使い続けていることがあるが、その歴史認識は錯綜状況にある。植民地のインフラ設備はその「公共」の内容にいくつもの留保がつけられた。これに対し、被支配民族側もインフラ設備を自分たちのものにすべく訴え、動いた形跡がある。本研究は申請者のこれまでの研究で用いていた「植民地的開発」という概念を発展させ、植民地のインフラ設備の整備において植民地的特質がどのように現れるのか、植民地台湾の港湾・河川整備の事例において明らかにする。 本研究の特色は、植民地はpublicとofficialが明確な違いをもつ空間であるという視点から「公共」財の植民地的特質を解明することにある。植民地下のofficialなものは被支配民族が使用不可能ではないものの使用に困難が伴うものである。一方のpublicは広く公衆に開かれてなければいけないが、植民地において公論public opinionを主張することは厳しく制限され被支配民族を単位とする公論形成は弾圧を受けた。よって、必ずしも対立的概念でないはずのpublicとofficialが植民地的状況下では対立概念として浮かび上がる。植民地権力と被支配民族はインフラ設備の運用をめぐり、互いに攻撃をしかけ、交渉、無視した。この植民地権力と被支配民族の摩擦をインフラ設備のpublic化(公共財の自治)とofficial化(支配の道具)のせめぎ合いとして整理することで植民地の「公共」なるものの特質を解明する。 本研究の意義は歴史研究に新たな知見をもたらすと共に、旧植民地と宗主国とも重なる現代の各国間の開発援助・技術移転のより良い関係構築に資するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は、①日本植民地期台湾の港湾・河川整備事業の変遷と②東台湾の新港建設運動および河川事業の「嘆願書」の背景を明らかにするための資料収集および分析を進めることを予定していた。 資料は国内および台湾で収集した。かつ、比較史のパースペクティブを取り入れるため、中国広州および香港調査を行った。これにより中華民国やイギリス植民地の港湾・河川整備と日本植民地の港湾・河川整備を照らし合わせ、植民地台湾の特性を明示する手がかりを得ることができた。 ただ、本年度では収集した資料を分析する前段階までにしか至れなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、収集した資料の分析および、研究成果の公表に力を入れる。だが、必要な国内外の資料収集も継続する。 第一に、日本植民地期台湾の河川事業・河川政策と住民の水資源利用の変遷を分析する。そして「公共」をキー概念に河川法及び総督府の政策と、台湾住民の水資源利用のせめぎあいの場(船筏・淡水魚の養殖ほか)を抽出し、両者の多様な応答・欧州関係を分析する。その成果を5月の台湾史研究会で学会報告し、年度内の原稿化を目指す。 第二に、昨年度に引き続き国内外で②東台湾の新港建設運動および河川事業の「嘆願書」の背景を明らかにするための関連資料を収集する。 第三に、アメリカから植民地台湾への技術移転を調査するため、Web公開された資料を精読したうえで、さらに渡米し資料調査を行う。 上記の調査で収集した資料をもとに、植民地権力と被支配民族の多様な応答・応酬を分析し、研究成果を学会などで報告する。
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