2019 Fiscal Year Annual Research Report
植民地台湾のインフラ(港湾・河川事業)にみる「公共」のあり方と植民地的特質
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19K20832
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
清水 美里 立教大学, 経済学部, 助教 (70785550)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 台湾史 / 水資源 / 植民地 / 河川 / 水利 / インフラストラクチュア / 公共財 / 近代 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度に当たる本年度は事例分析で著しい進展のあった河川事業について検討を深めた。そして、植民地のインフラ整備における特質の一端を明らかにし、以下の成果を得ることができた。 毎年のように水害と干ばつに悩ませされる台湾にとって安定的な水資源の確保は時代を越えて常に重要案件である。一方で、清朝期から日本植民地期にかけて台湾の水資源の運用は大きな転換を強いられた。それは、植民地と宗主国の水文化の違い、帝国主義的な技術移転の矛盾から逃れられないものであった。 近代日本では、西洋起源の水を「公水」と「私水」に区分する概念が一時盛んに議論された。植民地台湾でも議論が行われていたが、その様相は日本本土とは異なるものであった。本研究では、これまで台湾研究では大きく取り上げられてこなかった水資源の「公水」と「私水」論争に着目し、裁判資料や判例集、関連雑誌を用い分析した。 資料からは、担当官の混乱がしばしば確認でき、「公水」と「私水」の区分についても揺らぎがあったことを読み取ることができた。また、台湾人が水資源や水資源の管理組織、付属設備は「私」の領域にあることを訴えていたことが分かった。ある判例では、水資源の管理組織が公法人であるかどうかが争点となり、台湾人側が私法人だと訴えていた。というのも私法人あれば民法の範囲で司法判断を下すことができるが、公法人とされれば民事で争う余地がなくなってしまうからである。ここでは水資源が「私」の領域であるほうが台湾人にとって都合が良かった。本研究により、「公水」と「私水」の論争が植民地の支配・被支配の対立構造を露骨に示すことが明らかになった。 このほか、上記の成果を他のアジア地域(香港・満洲ほか)と比較検証していく新たな研究への着想を得た。
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