2018 Fiscal Year Annual Research Report
A Study on the Ottoman court ceremonies in the fifteenth and sixteenth century
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18H05628
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
川本 智史 金沢星稜大学, 教養教育部, 講師 (10748669)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | オスマン朝 / 宮殿 / 宮廷儀礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は学会発表を1回おこない、分担執筆の書籍を3冊出版した。 学会発表に関しては、2018年度都市史学会大会において「船が買いたい 前近代イスタンブルと海上交通」と題した研究成果の公表をおこなった。おもに社会経済史観点から都市社会を船という観点に着目して論じたものであるが、本科研費事業に関連してはスルタンのトプカプ宮殿からの出御と沿岸部の離宮、ならびにそこに至るまでの儀礼的な御船のあつかわれかたを考察した。 書籍のうち『危機の都市史』には、拙稿「征服と復興―オスマン朝期コンスタンティノポリス=イスタンブルの再建に関する一考察」を寄稿した。これは15世紀半ばのイスタンブル再建のプロセスを考察したもので、都市内におけるオスマン宮殿の位置にくわえて、ゾーニング思想の芽生えを指摘したものである。『地中海を旅する62章』では、古都ブルサならびに帝都イスタンブルの概論を寄稿した。いずれもオスマン宮廷が営まれて宮廷儀礼の舞台となったという点で本事業との関連が大きい。最後に『トルコ共和国 国民の創成とその変容 ─アタテュルクとエルドアンのはざまで』には、拙稿「国父のページェント-ムスタファ・ケマルと共和国初期アンカラの儀礼空間」を寄稿した。これは本事業で分析したオスマン朝宮廷儀礼の内容をもととして、20世紀のトルコ共和国初期段階での都市儀礼と権力の関係を考察したものである。オスマン朝末期スルタン即位時にイスタンブルでおこなわれた都市儀礼が基本的に、共和国の新首都アンカラでも踏襲されたが、軍事パレードの実施を契機としてその性格が変遷していく様を論述した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究の進捗状況は主に以下の二点である。 まず絵画史料から16世紀末に作成された『技巧の書』(Hunername)に登場する儀礼場面の考察をおこなった。美術史分野では、絵画中に描写された人物像について近年フェトヴァジュの重要な研究があるが、その手法の分析もおこなった。『技巧の書』の場面描写からは、スルタンとの謁見時に小姓など特定の人物が左右に描かれると同時に、場面が分割されて上座下座の区分があったとの事実を導き出すことができた。具体的な儀礼参加者の特定が今後の課題となる。 このほかにはオスマン朝宮廷儀礼の比較考察として、ビザンツ宮廷およびマムルーク朝宮廷での儀礼に関する基本的史料および研究文献の調査を米国ハーバード大学図書館でおこなった。またこの際ハーバード大学に在籍する複数のオスマン史研究者との議論もおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は上記の成果をもとに、次のように、天幕に関する内容の分析・考察を実施する。 遊牧民が主体となっていたテュルク(トルコ)・モンゴル系王朝では、伝統的な天幕や幕営設営の手法が継承されて独自の空間が出現し、むしろ首都内部の宮殿で宮廷生活が営まれる機会は少なかったことが知られる。オスマン朝はテュルク系ではあるものの、都市での盛んな建設活動から明らかなように早くから定住化の傾向を示し、宮殿が主たる儀礼空間となった。だが遠征中などには、幕営群が設営されて副次的な儀礼空間として用いられたため、宮殿における宮廷儀礼と比較対照が可能である。史料としては16世紀後半に作成された『スルターン・メフメト3世の王書』(Sehname-i Sultan Mehmed III)など、細密画を含む文献史料を用いる。 以上宮殿と天幕での儀礼を複合的に考察することで、オスマン朝宮廷儀礼の全容把握に努める。なお得られた成果については『オリエント』など学術雑誌への投稿を予定している。
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Research Products
(4 results)