2019 Fiscal Year Annual Research Report
オスマン朝の宮廷儀礼に関する研究:15~16世紀を中心に
Project/Area Number |
19K20834
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kanazawa Seiryo University |
Principal Investigator |
川本 智史 金沢星稜大学, 教養教育部, 講師 (10748669)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | オスマン朝 / 宮廷 / 宮殿 / 儀礼 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は15~16世紀オスマン朝の宮廷儀礼分析を目的とするものである。文献史料に加えて、建築史および美術史の手法を援用し、複合的に儀礼を復元する点に本研究の学術的独自性がある。宮殿の建築空間や儀礼の細密画における描写を詳細に分析し、断片的な文献史料の記述とあわせて、儀礼の復元に努めた。 まず絵画史料から16世紀末に作成された『技巧の書』(Hunername)に登場する儀礼場面の考察をおこなった。ここから、スルタンとの謁見時に小姓など特定の人物が左右に描かれると同時に、場面が分割されて上座下座の区分があったとの事実を導き出すことができた。席次や式次第など、宮廷儀礼の具体的な内容からはスルタンと廷臣との関係や宮廷組織の構造を読み取ることができる。同時に、服装や宴会における食事など文化史に関する情報を多く含むものである。 これに加えて、16世紀後半のスルタン親征時に設営された天幕の細密画の分析もおこなった。スルタンの大天幕が帷幄で囲まれて幕営地が設営される様子が描かれる。興味深いのが帷幄の入り口部分に描かれた仮設の高楼で、これはイスタンブルでスルタンが祝祭見物する際にも設営されるものである。他のテュルク系王朝では同等の設備があったとの記述がないため、これはオスマン朝宮廷の幕営に特有のものであり、実は宮殿にあった高層建造物を模したものだったと推測した。一般にオスマン朝では幕営の空間が固定化されて宮殿建築へと移行したとされるが、その逆の動きもあったことが示唆される。 またその前史としてオスマン朝の覇権以前のアナトリアで、ビザンツを含む諸勢力が大規模な宮殿を造営する力を失い、その代替として高層建造物が選択され謁見空間として用いられたことを文献史料の分析から明らかにした。オスマン朝が広大な中庭での宮廷儀礼を志向する以前にあった、高さを用いた王権の演出方法の存在を証明した重要な研究成果である。
|
Research Products
(5 results)