2018 Fiscal Year Annual Research Report
伝統文化振興策の受容と流用に関する人類学的研究:台湾原住民の織物制作を事例に
Project/Area Number |
18H05634
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田本 はる菜 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 博士研究員 (20823800)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 先住民 / 台湾原住民族 / 工芸・芸術 / 文化振興策 / 文化遺産 / 技術実践 / クラフトの人類学 / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、台湾におけるオーストロネシア語族系先住民(台湾原住民族)の手工芸制作と、近年の政府による伝統文化振興策の関わりについて、とくに国際機関や諸外国から導入された伝統文化に関する理念や制度が、先住民による手工芸品の制作・流通プロセスにおいていかに受容され、また独自に活用されるのかを明らかにしようとするものである。これまでの先住民の工芸・芸術研究が、土着の道具や技術の記録と保存を重視する物質文化研究と、先住民をとりまく政治的動向に関心をもつ先住民研究のもとで別々に行われる傾向があったことを踏まえ、本研究は先住民のモノの制作・利用を通じた政策制度の受容に焦点を当てることで、二つの研究動向を架橋しうる点で意義がある。 2018年度は、これまでの調査研究の成果を整理するとともに、台湾において先住民の手工芸品の制作・流通に関する現地調査を行った。とくに以下の2点について整理を進めた。(1)先住民と漢人による紐帯が手工芸品の制作・流通を支えている、という調査結果をもとに、台湾における先住民の文化産業が、エスニック・グループの枠をこえた地域的、日常的な社会関係を基盤に成立している側面を明らかにしつつある。この内容は、2018年9月に台北で行われた日台の研究者によるシンポジウムにおいて報告した。(2)先住民セデックの在来織り機による技術実践の動態に注目し、「変化のないメカニズム」か「創り出される文化」の二者択一という従来の見方に対し、素材や道具による制約、開発という契機、現地の人々のライフコースなどから複合的に形づくられていく技術のあり方を明らかにしつつある。この内容は、国内で行われた研究会等で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、台湾原住民族を対象とした伝統文化振興策と、原住民による手工芸品の具体的な制作・流通のプロセスとの関わり方を対象とし、その独自の展開の仕方を明らかにするものである。2018年度は、①台湾政府による原住民文化振興策の制度的背景およびその具体的取り組みについての体系的把握、②文化振興策のもとで進行している手工芸品制作・流通についてのフィールド調査を予定していた。 ①については、原住民文化振興策に関して政府が公開している資料や報告書、研究論文の収集が中心であり、日本国内でのインターネットを通じた情報収集、書籍購入に加えて、2019年に行った台湾での現地調査に際して、大学等の研究機関、原住民族地域の図書館等における資料収集を行った。とくに大学図書館での電子データベースの利用によって、関連する資料の収集、そのための情報収集を効率的に行うことができた。 ②については、2019年2月から3月にかけて、中部のセデック族集落および南部のパイワン族集落を中心としたフィールド調査を実施した。中部地域での調査では、インフォーマントの高齢化や現地の生活状況の変化に伴い、今後の現地調査が若干困難になることが予想されたため、これを補う目的で、南部の原住民族集落においても予備的調査を実施した。新たな調査地域では、刺繍を施した服飾の制作・販売・技術指導を目的とした原住民の工房を複数訪問した。この調査からは、個々の原住民の工房による経営方針の違いが顕著に見られること、また文化振興策を通じた手工芸品の商業化、それに伴う制作の効率化が推し進められている一方、工房が冠婚葬祭といったローカルな需要によって成り立っている側面が観察された。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度に続き、今年度も2つの課題、すなわち①台湾政府による原住民文化振興策の制度的背景およびその具体的取り組みについての体系的把握、②文化振興策のもとで進行している手工芸品制作・流通についてのフィールド調査を中心に研究を進める。具体的には以下の内容を実施する。 ①1990年代以降の原住民文化振興策の展開に関する資料調査を継続して行う。日本国内ではインターネットを通じた情報収集、書籍購入に加え、関連機関に足を運んで情報調査に当たる。また2019年度も予定している台湾での現地調査において、引き続き研究機関や行政機関等での資料収集に当たる。また2019年度は本研究課題の最終年度に当たるため、2018年度に収集した資料と併せて、文献調査の成果を論文執筆に利用可能な形に整理する。 ②2018年度に引き続き、中部のセデック族集落と南部のパイワン族集落を中心としたフィールド調査を実施する。1990年代の文化振興策によって増加した小売店舗を兼ねた工房と、工房経営に関わる関係者、関係機構を対象に、手工芸品の制作・流通にまたがる過程についての参与観察を行い、原住民の人々による伝統文化振興策の受容と、その独自の活用の仕方についての民族誌的データを収集する。また2019年度は本研究課題の最終年度に当たるため、2018年度に収集した調査データと併せて民族誌を執筆し、理論的な枠組みを備えた論文としてまとめ、研究成果として公開する。
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Remarks |
“'Technological choices' in Indigenous Crafts: Cases of Transfer of Weaving tools in Sediq, Taiwan” (北海道大学・モスクワ大学交流デー )2018.10.10 “「変わらない技術」はどう実現するか:台湾原住民族と「原始機」、開発の経験をめぐって” (首都大学東京社会人類学研究会)2018.7.20
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