2018 Fiscal Year Annual Research Report
Research on the notion of ayant cause in the contemporary french law
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18H05646
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
嶋津 元 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 特任講師 (70823392)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 時効援用権 / ayant cause / opposabilite / 対抗力 / フランス法 / 承継人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度における研究において、報告者は大きく分けて以下の2つの成果を得た。 一つは、20世紀のフランス法におけるayant cause概念がどのように扱われるようになったのかという点について、一定の見通しを得ることができたということである。つまり、19世紀のフランス法において、同概念は、権利義務の譲受人であるところの承継人概念とは微妙に異なる概念として認識されていた。例えば、債権者は債務者に対して債権を持っているだけでなんらの権利をも譲受けていないから、債務者の承継人ではないが、ayant causeではあると考えられていた。では、ayant cause概念を規定する要素は一体何であるのか。この点について、本年度に行った20世紀フランス法の研究から重要な示唆を得ることができた。つまり、20世紀フランス法においては、ある権利義務の存在を第三者も存在として尊重しなければならないという意味で、権利義務の存在に対抗力があると考えられるようになっている。債務者の持つ権利義務についても当然対抗力が認められるから、債務者の財産から債権の回収を図らなければならない債権者にとって、当該対抗力は特別な意味を持つことになる。報告者は、この対抗力の特殊な現れというものがayant cause概念の核となっているのではないか、という見通しを得ることができた。 もう一つは、当該対抗力を第三者が攻撃するための手段がフランス法には用意されており、この手段について理解することがフランス法における時効援用権の理論構造を理解する上で重要な役割を果たしうるということである。特に重要であるのが、フランス法における第三者故障の申立てという制度であり、時効が完成した当事者のayant causeとされる者が当該時効を主張するための手段として用いうる。この制度の構造を明らかにすることは、時効援用権の理解に直結しうるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度における研究の目的は、20世紀のフランス法におけるayant cause概念がどのようなものであるのかを明らかにするという点にあった。報告者はこの点について、上記「研究実績の概要」で述べたような成果を得ることができた。この成果を、当初の計画以上の進展として自己評価する所以は、何よりも、19世紀から20世紀にかけてのayant cause概念の理解の変遷を辿ることによって、第三者にとっての権利義務の存在の認識の問題というヨリ大きな文脈における問題を見いだすことができたからである。この問題こそが、l'opposabilite概念、つまり、対抗力概念の意義という問題である。 たしかに対抗力概念については、日本国内においても既に研究がなされているところではある。しかし報告者の研究は、1)時効援用権やayant cause概念の理論構成という新しい切り口から対抗力概念を検討するという点、そして、2)第三者が他人間の判決を攻撃しうるという第三者故障の申立てという制度を検討することで対抗力概念に迫ろうとする点、という以上2点において、従来の研究に対して貢献しうる点があるのではないかと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、報告者は、次の2段階を経ることで遂行していきたいと考えている。 第1段階は、フランス法における対抗力概念を、第三者故障の申立てという制度それ自体についての学説史および判例の展開に照らして、ヨリ明確なものとするということである。 第2段階として、第1段階で得られた成果を応用して、フランス法における時効援用権の理論構造をヨリ明らかなものにしたい。というのも、フランス法においては、第三者故障の申立てを用いることで時効を援用することができるという説明がなされることがあり、第三者故障の申立ての理論構造を明らかにすることは、時効援用権の理論構造を解明する上で重要な役割を果たすと考えられるのである。 以上2段階によって得られた成果は、アップデートされた博士論文の公表という形で、公開したいと考えている。
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