2020 Fiscal Year Research-status Report
戦間期南半球からの農産物流通の史的研究ー南アフリカのFed-Farmsの事例から
Project/Area Number |
19K20894
|
Research Institution | Chiba Keizai University |
Principal Investigator |
宗村 敦子 千葉経済大学, 経済学部, 専任講師 (20828355)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 農産物流通 / 南アフリカ / 海底ケーブル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1920年代の南アフリカ産果物のグローバルな流通経路の一端を、Fed-Farmsというグローバル企業の資料から明らかにしてきた。昨年度までに現地文書館での調査を行い、申請者は企業資料のみならずその関連資料も収集した。とくに農業新聞South African Fruits Growersには、ロンドンにおける輸出果物の取引価格が記された「代理店報告」が多く含まれるため、現在までそれを利用した価格データベースを作成中である。 その上で本年度は論文、Atsuko Munemura(2021)"Submarine Cable and African Fruits: Contstruction of Information Network by Southern Hemisphere Fed-Farms"を執筆した。本論文は従来等閑視されてきた植民地における情報の受容というテーマで、海底ケーブルが遠隔市場取引では実際どのように利用されたのかを論じている。グローバル経済史と南アフリカ経済史の研究史に対して、本論文には2つの新規的視点が盛り込まれている。 1) 海底ケーブルの敷設によってイギリスが情報覇権を20世紀初頭に築いたことは、これまでのグローバル経済史でも指摘されてきた。しかし多くのテレコミュニケーション史は、軍事技術への利用例に関心があった一方、植民地も含めた商業利用の例には触れてこなかった。それに対し、本研究は植民地の農場主達がそれを農業組合という共同性を通じて海底ケーブルを利用した先物取引に関わっていたことを明らかにした。 2) 南ア経済史では戦間期の農業利害の内向性が描かれてきたが、Fed-Farmsの研究は南半球企業としてのユニークな情報戦略を示すものである。本研究は南半球とグローバル市場の補完性という視点を深めることに、今後より貢献できると期待している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請者は本年度始めに、コロナによる海外渡航が困難であるという理由から執筆計画を早めて論文を完成させた。現在作成中の価格データベースへの打ち込み作業がを終わるにはまだ時間がかかるが、検討対象とする戦間期のうち、少なくとも前半10年に当たる1920年代を題材とした考察を論考にまとめられたことは一つの区切りであると考える。今年度は研究期間を延長した予算を発展的な課題に利用し、「南アとグローバル市場の補完性」という問題関心の一方で取り組むことができなかった「南半球市場の中での競争」という点に着目して資料収集を続けたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、海底ケーブルを利用した先物取引がロンドンと南アの間で直線的にやり取りされてきたことを論じててきた。その一方で、ロンドン市場の内部での競争には触れてこなかったため、果物の輸出契約の成立のためにロンドン側でどのような長所が評価されたのかは明らかにできていない。それには例えば、南アも含む海外産地からの輸送コストの比較や船賃の種別の整理(CIF価格かなど)も必要である。 本年度は、情報需要の観点から輸送に目を映しながら、グローバル企業と南アフリカの船舶会社であるUnion Castleの関係等を調べつつ、定期船を使った輸送コストの実際を検討したい。その結果は、本年度の成果とは別の論考「Union Castleの果物定期船」研究として投稿論文にまとめる所存である。
|
Causes of Carryover |
本年度はCovid-19の影響により、研究予算を渡航費用として使用することはできなかった。特に図書購入に宛てるなど代替措置も考えたが、目的としている資料の取り寄せについても、海外の文書館が長期間休館状態で連絡が取れないなどの問題点もあった。こうした状況を鑑みて本年度は一端研究成果を論文としてまとめることに専念し、さらに資料調査が必要な箇所についてはワクチン接種などにより状況が改善してから改めて補うことにした。 そのため、研究計画では「海底ケーブルと果物」という従来の関心とは別に情報収集をし、補完的な観点で資料調査の可能性やオンラインによる聞き取りなどを今後進める。とくに今年度二回にわたる研究発表の中で指摘された「南半球とグローバル市場における補完と競争」という両面性に着目することにより、本来の研究計画以上の成果を出せるよう取り組む予定である。
|
Research Products
(3 results)