2018 Fiscal Year Annual Research Report
成長と分配を両立させたマクロ経済分析の可能性―ロバートソン経済学の再検討―
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18H05709
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
仲北浦 淳基 同志社大学, 経済学部, 助教 (70823095)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 経済学史 / ケンブリッジ学派 / デニス・ロバートソン / 分配論 / テキストマイニング / 人的ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ケインズと双璧をなしたD. H. ロバートソン(1890-1963)の経済理論を精査することで、経済成長と所得再分配を両立させるマクロ経済分析の可能性を探ることである。論文や書評の原典研究のみならず、そのとき主流派を形成しつつあった著名なマクロ経済学者との私的な書簡も研究対象とする。さらに、質的な文献研究だけでなく、量的なテキストマイニング分析も併せて行う。 本年度は、2018年9月に千葉商科大学所蔵「ロイ・ハロッド文書」の内、本研究対象であるデニス・ロバートソンに関連する文書を収集した。また、2019年2月および3月にケンブリッジ大学レン図書館所蔵Papers of Dennis Robertson の収集と、ケンブリッジ大学図書館およびマーシャル図書館所蔵のロバートソン関連文書を収集し、ローストフトでもロバートソンに関する調査を行った。 「分配論」と「成長論」という本研究の2軸のうち、本年度は主に「分配論」を取り上げ、ロバートソンの著作の翻刻、翻訳および分析を行った。ロバートソン経済学のコア概念である「努力」概念から彼の分配理論を再構成した。そこで明らかになったのは、名目的な賃金率の上昇ではなく、生産性向上の結果として物価が下がっていくことによる実質賃金率の上昇をロバートソンが展望していたことである。彼はこの思想を「労働本位」と呼び、成長する経済のあるべき姿だと考えたのである。 本研究では文献の質的分析のみならず、文献の量的分析法「テキストマイニング」に関する研究を行った。特にロバートソンが公設委員会で証言した資料をテキストマイニング分析することで、彼が貨幣ではなく実質realを重視していたことを量的に説明した。経済学史におけるテキストマイニングの応用はいまだ萌芽的な段階であるが、本研究において、一定の成果を残すことができたと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「ロイ・ハロッド文書」およびPapers of Dennis Robertsonといった膨大な資料収集が最も難関だと想定していたが、本年度中に計画通り終了させることができた。文献の分析に関しても、当初の予定通りロバートソンの「分配論」の再構成をおおむね完成させることができた。ただし、収集した文書の翻刻が困難を極めるため、予定していたよりも遅いペースでしか翻刻作業を進められていない。だが、大体においては想定通りに研究を進められているため、おおむね順調に進展していると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、収集した資料の翻刻、整理、翻訳および分析を進めつつ、ロバートソンの「成長論」の再構成および、「分配論」と「成長論」の結合に向けて研究を進めていく。 「分配論」に関しては、2019年6月の経済学史学会全国大会で報告の後、論文執筆に移行する。「成長論」に関しては、資料文献の分析を進めながら学会・研究会で数度の研究報告を行った上で、論文執筆に取りかかる。 また、文献資料の量的分析として、テキストマイニング手法を用いるために、アナログ文書のデジタルファイル化を行う。「分配論」と「成長論」に関する文書を中心として、テキストマイニング分析を行うことで、自らの解釈に量的な裏づけをすることを試みる。
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