2019 Fiscal Year Research-status Report
ひとり親世帯の階層状況と就労・世代間再生産に関する社会学的研究
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19K20918
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
斉藤 知洋 立教大学, コミュニティ福祉学部, 助教 (00826620)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ひとり親世帯 / 社会階層 / 就労自立支援 / 地位達成 / 計量分析 / 貧困・低所得 / 公的統計 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目にあたる本年度(2019年度)は、シングルマザーの就労と社会階層の関連に焦点をあてた統計解析を進めた。具体的には、2000年代に展開された積極的労働政策のもとで(1)シングルマザーの中で正規雇用への就労機会がどの層に開かれたのか、(2)正規雇用就労による貧困削減効果に階層差がみられるのかという分析課題を設定した。これらの問いと検証するために、「就労構造基本調査」(総務省)の匿名データによる二次分析を引き続き行った。 分析から得られた知見は、大きく2点ある。第1に、就労促進施策前(1997年)には末子年齢が上昇するほど、シングルマザーは正規雇用就労を選択していたが、同施策後(2007年)には低学歴層では同様の傾向は認められない。すなわち、労働市場の非正規化の影響を最も受けたのは母子世帯の多くを占める低学歴層であり、その帰結として母子世帯の経済的脆弱性が高まっていた。第2に、傾向スコア・マッチング法の推定結果からは、時間あたり賃金率と就労貧困率の削減に対する正規雇用就労の因果効果(ATET)は低学歴層ほど小さかった。また、正規雇用就労を達成したとしても、非大卒シングルマザーの半数以上は自身の就労所得のみで貧困状態を脱していないことも明らかとなった。 これらの結果は、労働市場に存在する強固なジェンダー/学歴間の賃金格差を反映したものであり、福祉給付要件の厳格化を伴う就労自立支援施策の下では、母子世帯の経済的自立の実現が一層困難であることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の大きな成果は、これまでの統計解析から得られた諸知見を学術論文に取りまとめる作業に労力を注いだことで、2本の論文掲載(うち1本は査読付学術論文)が決定したことである。また、同様の問題関心を有する研究者と共に、他の公的統計(国勢調査・国民生活基礎調査・社会生活基本調査)の個票データの利用申請を進め、データセットの構築と基礎分析に着手することができた。それにより、当初の分析枠組みをさらに拡張した計量分析が期待できる。これらの点をふまえ、「2.おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、2019年度までの予定であったが、先述のとおり他の公的統計データを分析する機会を得たことでさらなる学術的知見や政策的含意を得ることが大いに期待できる。そのため「補助事業期間延長承認申請」を行い(2020年3月に承認済み)、次年度(2020年度)まで本プロジェクトを継続することにした。 今後は、シングルマザーの就労と生活機会(時間貧困(time poverty)・健康(メンタルヘルス)・社会的排除など)の関連を精査するとともに、当初の研究課題である(1)ひとり親世帯の形成要因と(2)ひとり親世帯出身者の社会経済的地位達成に関する分析も進めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、2020年1~3月にかけて開催される国際学会及び国際ワークショップ(統計セミナー)の参加費・旅費として拠出する予定であった。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響によりこれらの開催が中止となったことから残金が発生した。 先述のとおり、本研究課題は次年度まで延長することが承認されたことから、残額を①物品費(主に図書)、②国内旅費、③その他(英語校正料など)に充てることにしたい。
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