2018 Fiscal Year Annual Research Report
就業ステータスに基づく主観的ウェルビーイング格差固定化メカニズムの解明
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18H05726
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 陽平 東北大学, 経済学研究科, 博士研究員 (30827895)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 主観的ウェルビーイング / パネルデータ / 適応効果 / 就業ステータス / ベイズ統計 / 非正規雇用 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の30年度には、時系列データ分析手法、主観的ウェルビーイングと就業ステータスの関連について文献調査を行った。また、分析に向けたデータの前処理と分析モデルの構築を行った。 (1) 文献調査: 時系列データの特性、その特性を活用した統計モデリング手法、モデルの評価手法、そして将来予測手法といった時系列分析の方法論や主観的ウェルビーイングと就業ステータスの関連についての実証研究に関する文献をレビューした。 (2) データの前処理: 申請時点ですでに分析に向けたパネルデータの整理をおおかた済ませていたが、発展的な分析を行うことも踏まえてデータベースに含める変数を再検討したのち、追加で必要な変数については質問文・選択肢項目・コーディング規則について年ごとの推移を整理した。また、ある就業ステータスが継続している状況の変数化、どのようなサンプルをどのような理由で分析から除外するのかといったデータの前処理にかかわる諸課題についても文献調査の内容を踏まえ方針を決定した。そして、統計ソフトでの分析に向けた前処理として、整理してきたこれらの点を反映するようにデータの加工・整形を行うプログラム実装を進めた。 (3) 分析モデルの構築: 文献調査の結果を踏まえ、パネルデータからある就業ステータスの継続状況と主観的ウェルビーイングの程度の関連性を推定するベイズ統計モデルを構築した。 (4) 研究成果の発信: 本課題研究に関する成果を全米非営利学会で発表をした。そこでの議論を通じて主観的ウェルビーイングと社会的排除の関連を本研究の文脈において検討する必要性について示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究に関連する理論と方法論の文献調査を進めることができた。特に、パネルデータに対する統計モデリング、将来予測、そしてモデル評価をどのように実現するかは本研究における方法論上の最大の課題であったが、これらの点について理解を深めプログラム実装の見通しが立った点は大きな進展と考えている。 パネルデータではサンプリングプロセスや調査対象者の脱落によって多くの欠損データが生じ、このことが分析プロセスにおけるパネルデータ特有の扱いにくさを生じさせる一因ともなっていたと考えられる。しかしながら、このような状況にも本研究で採用するベイズモデリングの枠組みで観測データを効果的に活用しながら対応できることがわかった。また、将来予測やモデル評価も欠損データの推定と密接に関わっていることがわかり、これらの先行知見をもとに本研究におけるパネルデータ分析に関する方法論上の土台を整えることができた。 また、国外における関連学会で研究報告を行い、そこでの議論を通じて主観的ウェルビーイングと社会的排除との関連を本研究の文脈で検討する必要性についても示唆を得ることができた(「Subjective Well-being for NPO Marketing and Evaluation in Japan」『The 47th Annual ARNOVA Conference』, Hilton Austin, Austin Texas, USA, (November 15 2018))。 なお、初年度の間に論文投稿することを予定していたが、今年度投稿することとした。これは、文献調査結果を踏まえ統計モデルの再検討が必要と判断したためである。この再検討によってベイズモデリングによるパネルデータ分析を行う意義も上述のように整理できた。したがって、初年度としては順調な進捗状況であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
31年度においては、初年度に引き続き以下の通り研究を推進させていく。 (1) 文献調査: 初年度の各調査結果を踏まえて文献調査を進展させる。その際、社会的排除をテーマとした文献も調査対象に含める。 (2) データの前処理: 初年度の文献調査を踏まえてプログラム実装をさらに進めていく。 (3) 統計モデルの実装: 統計モデルの実装を文献調査と並行して進めていく。パネルデータに対する統計モデリング、将来予測、そしてモデル評価は前述のように大きな方針が立ったものの、ベイズモデリングではMCMCサンプリングが収束しないと分析結果の解釈ができない。複雑なモデルになるほどサンプリングが収束しない問題に直面する可能性があり、これは今年度乗り越えるべき課題である。サンプリングが収束しない場合の対応策を検討するためベイズモデリング関連の文献調査をさらに進めるほか、モデルの改善点への示唆を得るためグラフィカルモデルというモデルの全体像を要約的に可視化する手法を、またプログラムコードに由来する問題を減らすとともに問題発生時の対処を容易にするためプログラムコードの変更履歴を追跡可能にするGitというバージョン管理システムを導入する。 (4) 分析結果・モデル評価・将来予測の可視化: 初年度の文献調査を踏まえて進めていく。 (5) 研究成果の発信: 昨年度は全米非営利学会で発表したが、今年度は方法論と理論に集中した議論を意図し、国内学会である統計関連学会連合と日本社会心理学会での発表を予定している。それぞれの学会で統計分析手法と社会心理学の観点からフィードバックを受け、学術ジャーナルに投稿する。
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