2022 Fiscal Year Annual Research Report
就業ステータスに基づく主観的ウェルビーイング格差固定化メカニズムの解明
Project/Area Number |
19K20923
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 陽平 東北大学, 経済学研究科, 博士研究員 (30827895)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 主観的ウェルビーイング / 幸福感 / パネルデータ / 失業 / 非正規雇用 / 就業ステータス / 適応効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は正規雇用と失業のはざまに置かれた非正規雇用という就業ステータスに着目して、主観的ウェルビーイング格差の一つとしての幸福感格差の固定化メカニズムを解明することを目的としていた。 そこで、まず、日本のパネルデータを用いて非正規雇用であり続けることの幸福感への持続的影響の測定を行った。その結果、男性非正規雇用者では初年度における幸福感が有意に低い傾向があったものの1年後には適応していた。一方、男性失業者では 2 年未満ではあまり変化がないものの、 2 年後から有意な低下傾向を示した。このことは、本研究着想の契機となった横断データにおける非正規雇用者の幸福感が有意に低く、失業者の幸福感には有意な傾向が見られなかったことと整合している。しかし、パネルデータで分析したことによって着想当初の予想に反した結果が得られたといえる。つまり、長期的に見た場合、個人の幸福感にとって望ましくないのは非正規雇用よりも失業だったということになる。 この結果を踏まえて、非正規雇用や失業者といった特定の就業ステータスの持続やそれらの就業ステータス間での移動と幸福感との関連についてシミュレーションデータを発生させることで将来予測を行った。その結果、男女ともに正規雇用者から失業者に移行した場合、長期的な幸福感の低下が持続する一方で、失業者から正規雇用者や非正規雇用者に移行する場合、幸福感の増進が見られた。幸福感の増進は、失業者から正規雇用者への移行では幸福感レベルの不連続な飛躍として観察されたのに対し、失業者から非正規雇用者への移行では緩やかな増進として観察された。 したがって、非正規雇用よりも失業の方が長期的に見たとき個人の幸福感にとって深刻であること、失業から就業への移行は幸福感を増進させるが、非正規雇用への就業より正規雇用への就業の方が幸福感の増進が早いことが本研究の主要な知見となる。
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