2019 Fiscal Year Research-status Report
Educational attitudes and distrust between college graduates and non-college graduates: Social trust theory approach
Project/Area Number |
19K20924
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大崎 裕子 東京大学, 社会科学研究所, 特任助教 (10825897)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 大卒・非大卒間の相互不信 / 教育意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.大卒・非大卒間の相互不信の構造および教育意識との関連にかんする研究 2018年度に本科研費プロジェクトにおいて実施した「学歴間相互不信と教育意識に関する調査」のデータを分析し,主に以下二点について明らかにした. 第一に,大卒・非大卒間の相互不信の構造を検証した.様々な属性をもつ他者(ヴィネット)に対する信頼感をたずねる要因調査実験をおこなった結果,大卒者は非大卒者よりも大卒者をより信頼する傾向(同類信頼=学歴間不信)があった.ただしその傾向は限定的に確認されたことから,要因調査実験における信頼測定のシナリオやヴィネット設計の妥当性等について精査すべきであることが判明した(数理社会学会で報告済み). 第二に,大卒・非大卒間の相互不信が教育意識に与える影響を検証した.自分より高/低学歴の人に対する信頼が大学教育への支持に与える影響を分析した結果,高卒者・大卒者いずれも,学歴間不信のなかでも特に「低学歴者への不信」が大学教育支持に重要な影響を与える可能性が示された(日本社会学会で報告済み). 2.大卒・非大卒間の学歴間不信が社会分断を促進するメカニズムにかんする研究 同メカニズムの仮説探索の作業として,集団間信頼の基盤である対人的信頼の水平性が,階層的な社会において他者との垂直的比較から生じる劣等感や優越感を抑制するプロセスを,Social Well-Being Survey in Asiaの日本データから検討した.その結果,他者に対する信頼感が高い人ほど,(他者の所得と比べた)相対所得が幸福感に与える影響が小さいことを明らかにした(国際QOL学会で報告済み).以上の知見を学歴の異なる集団間の信頼構造に応用することで,大卒・非大卒間の不信は,学歴という地位の比較による劣等感や優越感を増幅させることで,集団間の連帯を破壊し,社会分断を助長する可能性があることが仮説として示された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は2018年度調査(予備調査)を踏まえた本調査の実施を計画していたが,結果的に延期した.予備調査データを分析し,学会で報告した結果,本調査を設計する上で,以下の点においてより丁寧に検討することが妥当と判断したためである. 具体的には,予備調査において,大卒層・非大卒層の間の相互不信の構造を解明するうえで試験的に導入した要因調査実験の有効性が高いことから,より精査したうえで本格的に採用することが適切であることがわかった.それに伴い,学歴間相互不信の測定において回答者に他者への信頼を尋ねる際のシナリオや信頼対象となる他者の属性ヴィネット等,要因調査実験の設計については不明確な点が残されており,重点的に改善する必要があることが判明した.対人的信頼研究や学歴分断社会論においては,要因調査実験をもちいた研究が少なく情報が限られることから,隣接する他分野を含め幅広く文献サーベイを行い,手法の応用について丁寧に検討することが,精度の高い本調査を設計するうえで妥当と判断した.以上の理由から,2019年度に予定していた本調査の実施を延期することとした.
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,2018年度に実施した予備調査を引き続き精査したうえで,本調査(ウェブ調査)を設計,実施する.収集したデータの分析から,学歴間の相互不信の構造,および学歴間分断と教育意識等との関連・因果の構造について検証する. 本調査の設計にあたっては主に以下の2点を準備する.第一に,予備調査で導入した要因調査実験について現在までに判明している課題を整理し,関連文献サーベイにもとづいて必要な修正を行うとともに,予備調査データについて追加の応用的分析を進め,大卒層・非大卒層の相互不信を測定するうえでより妥当な調査設計を検討する.第二に,学歴間相互不信と学歴分配公正感の関連や,学歴間の客観的な分断をあらわすネットワーク状況についても予備調査データの分析を進め,既存の理論と照合し,リサーチクエスチョンと仮説について必要な修正を行う. 予備調査および本調査の成果は国内外の学会報告や論文において随時発信していく予定である.
|
Causes of Carryover |
2019年度は2018年度調査(予備調査)を踏まえた本調査(方法:ウェブ,調査会社に委託,対象:全国の調査会社登録モニター成人男女)の実施に研究費を使用することを計画していた.しかし本調査を設計する過程において予備調査データを分析し,学会で報告した結果,学歴間相互不信を測定する方法として試験的に導入した要因調査実験の有効性が高く,分析から判明した課題を重点的に改善する必要があることがわかった.対人的信頼研究や学歴分断社会論においては,要因調査実験をもちいた研究が少なく情報が限られることから,隣接する他分野を含め幅広く文献サーベイを行い,手法の応用について丁寧に検討することが,精度の高い本調査を設計するうえで妥当と判断した.以上の理由から,2019年度に予定していた本調査の実施を次年度へと延期することになった. 2020年度は予備調査の課題を修正したうえで本調査を実施し,これに研究費を使用することを計画している.
|