2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H05730
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
高橋 康史 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 講師 (60824711)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 子ども時代の逆境的体験 / 家出 / ドリフト / 家族規範 / 青少年福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、社会的養護の外側にいる子どもに対するオルタナティヴなケアモデルの構築を目指して次の4つの作業を行った。 第1に、家族崩壊を経験した子どもの生活過程を捉えるための理論研究である。具体的には、子どもの家族崩壊に関する国内外の先行研究を学際的・網羅的に検討することによって、日本における子どもの家族崩壊に関する研究の特徴、専門職の実践をめぐる課題と限界を整理した。第2に、社会的養護の外側にいる子どもへのインタビュー調査をもとにした質的研究である。具体的には、子ども時代に家庭崩壊を経験しながらも、社会的養護(社会的支援)を得ず、生活を維持した者への半構造化面接形式によってインタビュー調査を実施した。当該年度では、10名に対するインタビュー調査を実施した。第3に、こうした社会的養護の外側にいる子どもたちに対する民間の取り組みに注目した実践研究を行った。具体的には、特定非営利活動法人くらし応援ネットワークにおける修学支援プログラムを対象に、フィールドワークおよび参加者への聞き取り調査によるプログラムへの評価を把握した。第4に、諸外国における制度政策の検討を通した制度研究である。具体的には、日本と異なる「家族観」のもと社会的養護の先駆的な取り組みを行うアメリカ・オレゴン州およびワシントン州、韓国・ソウル特別市を事例に、フィールド調査を行なった。アメリカでは、ラップアラウンド方式による子どもの精神保健システムの構築、韓国では、家出へのアプローチを視野に入れた青少年福祉システムの構築に注目し、実務家に対する聞き取りも行った。 なお、以上のような研究を通じて、社会的養護の外側にいる子どもの経験を捉えるうえで、「家族崩壊」よりもむしろ「逆境的体験」という用語を用いることが適切であると明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、研究が開始した2018年9月に構想した計画のスケジュールで研究が進んでいる。補助金を通じて備品を購入し、研究に必要な環境を整えることができた。そして、そのうえで、子ども時代に逆境的体験をした者に対するインタビュー調査を実施することができた。また、諸外国でのフィールド調査も実施し、日本の特徴や限界を経験的に把握することができた。 これらの作業と研究活動を通じて、従来の研究では指摘されていない子ども時代の家族経験をしていることが明らかになりつつある。たとえば、子ども時代の「家出」が、必ずしも養育者に断わりを得ないまま家庭を抜け出す行為というように限定的な意味ではない可能性があること等があげられる。また、社会的養護の外側にいる子どもたちが、制度では把握できない逆境を体験しているということもあげられる。このように、子ども時代の「家出」は、それを経験する者によって異なる意味づけをもち、多様な視点から家族経験を捉える必要性を認識できた。 しかし、それを論証・実証するための先行研究や文献の検討、インタビュー調査の経験的データの収集、経験的データの分析が不十分である。
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Strategy for Future Research Activity |
以上のような研究の限界を乗り越えるために、今後においては文献の検討による子どもの逆境的体験を捉え直すための理論研究、さらなるインタビュー調査の実施と分析への着手による質的研究を進めることが求められる。 第1に、これまで実施してきた子ども時代に家庭崩壊を経験しながらも、社会的支援を得られず、生活を維持した者へのインタビュー調査を更に進めていくことである。今年度も新たに10名の調査協力者に聞き取りを行うことを目標とする。また、これまでインタビュー調査を実施した者に対して追跡インタビュー調査も必要に応じて行っていく。 第2に、第1のインタビュー調査を音声データからトランスプリクト化し、こうした経験的データをこれまで検討してきた理論的枠組みの視点から分析を試みることである。 第3に、諸外国で得た制度・支援枠組みについての資料を体系的にまとめ、そうした制度体系から日本に学びうることを考察することである。 そうした作業をもとにしながら、社会的養護の外側にいる子どもに対するオルタナティヴなケアモデルとして、思春期の子どもたちの制度・支援枠組みを包括的に捉え直す手だとして、青少年福祉論の体系化に向けて研究を進めていくことが今後における研究の方策である。
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Research Products
(5 results)