2019 Fiscal Year Research-status Report
学校自己評価が教職員間の協働につながる条件と過程に関する研究
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19K20937
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 織恵 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任助教 (70825075)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 教師間の省察・協働 / 学校自己評価 / 教師の職能成長 / 対話・協議 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はこれまでに、主にフランスと日本の学校評価制度を対象に、その類型化と効果の検証に関する研究を行い、教職員参加型の目標設定が、教職員間の協働に与える影響に学校段階差や学校差が見られる点を明らかにしてきた。本研究では、異なる自治体における三つの小学校で比較事例分析を行い、日本の各学校における学校評価の実践における、目標設定から学校評価の協議に連なる一連のプロセスを検討した。こうした検討により、目標設定への教職員参加が、学校評価の効果的な活用につながるためには、学校評価における対話と合意形成の過程において、校長とミドルリーダーのリーダーシップ、そして学校課題の教師自身による取捨選択が重要であることが示された。 一方、先行研究は学校評価の効果として教職員間の協働に着目した研究は少なく、とりわけ目標設定の主体に誰が位置づけられるかの実態や、その主体と教職員間の協働との関連性については実証的に検討されてこなかった。定性的な研究では、小学校において、教職員による課題の把握と目標の重点化が教師間の協働に結び付くという事例と、ビジョンや目標を明確に示す校長のリーダーシップが教師間の同僚性を高めるという事例があるが、そのどちらの方策がより教師間の協働につながるのか、また校長―教師間の役割分担がどのように行われるべきなのかといった目標設定から協働につながるプロセスが明らかとなっていなかった。本研究はそうした視点から学校評価制度の成果について、質的な観察手法を用いて新たな知見を提供した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、学校評価への教職員参加が教職員間の協働につながる条件と、そうした条件が学校評価の実施方法とその効果につながるプロセスを、学校段階や自治体規模による違いに着目しながら明らかにすることを目的としている。本研究は、学校自己評価が、教師間の協働、ひいては教育実践の改善につながる効果に関する体系的な実証的研究である。さらに、学校段階や自治体規模ごとに複数の事例を取り上げ、質的調査を通して、目標設定から協働に至る一連のプロセスを、海外の先行研究で指摘されてきた要因を基に検討することも目的としており、義務規定となっている学校自己評価の、学校段階や自治体規模に応じた効果的な活用方法についての新たな知見や理解を提供するものである。以上の分析は2020年1月に提出した博士論文の中でまとめた。今後は調査を行った3つの事例それぞれについて論文にまとめていく予定である。 上記の研究は、概ね順調に進展したと考える。その理由は、第一に、学校自己評価の協議が教師間の省察に繋がるための影響要因を明らかにした点である。第二に、学校規模や自治体規模がこうしたプロセスの影響を与える可能性を指摘した点である。しかしながら、中学校においては比較事例分析に耐えうる数の調査校が確保できなかった。今後、学校段階による違いも踏まえた上で、本研究によって提起された仮設のより詳細な検討が可能となると考える。以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題として、教師の省察を深める方策を検討していく必要性が導かれた。本研究で行った事例研究からは、特に若手や中堅の教員は、教授上の目標が効果的に達成されたかを問う「技術的レベル」の省察に留まる傾向がみられた。また、教師が自らの実践を子どもの成長に即して批判的に捉えなおす「実践的レベル」の省察はすでに設定された目標の範囲内に限定される傾向があり、またそうした省察を倫理的・社会的諸問題にまで広げていく「批判的・解放的レベル」の協働は極めて困難であることが示された。学習指導要領の改訂に伴い、児童生徒に育成していく能力は、認知システムに留まらないメタ認知システム、そして行為システムにまで拡大している。持続的で公正な社会の担い手を育成することを教育の目的と捉えるならば、課題を発見し、異質な他者との対話や協働を通して、社会を民主的に組織化し再構成するための批判的思考力は教師にも求められており、その方策について検討していく必要がある。 このように申請者は、これまでの研究の中で、日本の教師や学校にとって、政治や社会の問題にまで批判的な省察を広げていくことが難しい実態を明らかにしてきたが、今後はESDの実践に着目し、教師の省察や協働について検討していく予定である。ESDにおいては「批判的思考」や、「自分自身と社会を変容させる学び」がキーワードとなっており、ESDの実践における教師の専門性や学校経営についての考察は、こうした課題を乗り越える一つの方策を提示するものではないかと考えた。
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Causes of Carryover |
現在日本での調査がおおむね終了し、これまで得られた知見を博士論文にまとめることができた。一方、2020年1月~3月に発生した新型コロナウイルスの影響で、日本で得られた知見を海外の学会で発表し、国際的な文脈の中で相対化していくための時間的猶予がなかった。そこで、当初の補助事業期間であった2年間を延長し、これまで得られた知見を国際的に発表するため、科研費の残金の使用を来年度に持ち越した。
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