2018 Fiscal Year Annual Research Report
生活基盤型保育における協働志向性の育ちに関する質的研究
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18H05780
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | ARIAKE College of Education and the Arts |
Principal Investigator |
菊地 大介 有明教育芸術短期大学, 子ども教育学科, 准教授(移行) (10824120)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 協働志向性 / 生活基盤型保育 / 人間形成 / 寄り合い |
Outline of Annual Research Achievements |
これからの保育をいかに創造していくかが問われるなかで、非認知的能力が注目を集めている。これは、幸福な社会を形成するために求められる成熟した市民性への土台を育むこと、すなわち豊かな人間形成への期待と、その重要性の再認識が示されていると考えることができる。一斉保育を中心とした「就学準備型」の教育に比べて、「生活そのものを教育へ」という立場をとる生活基盤型の保育は、人間形成へのアプローチとして「協働志向性」の育ちを促進することが予測される。そこで本研究は、日々の保育における連続的な生活の文脈から「協働志向性の育ち」を質的に捉え解釈することを通して、これから求められる保育の在りかたと保育者の専門性を検討するための質的な視座を得ることを目的とした。 現在までの成果として、①「文献の収集/フィールドでの焦点設定」に関しては、国内外における人間形成と生活基盤型保育に関する文献や論文の収集を行うとともに、フィールド調査から観察の焦点として、「子どもの寄り合い行動」を設定した。 ②「質的データ収集と分析(概念の析出)」に関しては、生活基盤型保育で育まれる協働志向性の行為のデータを「寄り合い行動」に注目して収集し、設問を練り直しつつ観察の焦点化を試みた。保育者へのインタビューや保育記録でもある園ブログ情報の他、園便りにも注目して、保育の理念と保育者の意図の解析と保育における表出を模索した。 ③「データから析出された概念を用いてデータを分析し、蓄積していく」ことに関しては、保育者や保護者との対話も記録しながら調査を実施・継続し、協働志向性の育ちの解釈を進めている。 ④「協働志向性の育ちに注目したデータの意味を解釈し、これからの保育のありかたに関する仮説を提示する」に関しては、今後の取り組みとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①~④段階に設定した研究計画はおおむね順調に進んでいるが、①「文献の収集/フィールドでの焦点設定」に関しては、国内外における人間形成と生活基盤型保育に関する文献や論文の収集が遅れている。フィールドワークは比較的順調に進んでおり、その成果としては「寄り合い行動」の焦点化と抽出ができたことが大きい。 ②「質的データ収集と分析(概念の析出)」に関しては、前述の理由から順調に進んでいるが、今後の調査の進展によっては焦点化の再設定も生じてくる可能性がある。保育者へのインタビューや記録から、「寄り合い行動」の表出に関係すると考えられる保育者の意図の解析と保育における表出を模索しているが、現在までに保育者の「待つ」という姿姿が生活意を共にする子どもたちの模倣衝動に働きかける可能性が考えられる。月齢差をはじめとした能力差のある者で形成される共同体のなかでは頻繁に「待つ」という行為が繰り返されており、保育者のそのような姿勢が子どもによって再現されている。その「待つ」行為は決して自己犠牲的なものではなく、無地からのやりたいことや思いを犠牲にしない形でおこなわれていることは特筆に値する「寄り合い行働」であり、協同志向の行為として特徴的なものであると考えられる。 ③に関しては前述したようなデータを保育者の意図性などの視点も交えながら多角的に分析し、現在蓄積していく行為を積み重ねているところである。 今後は、④「協働志向性の育ちに注目したデータの意味を解釈し、これからの保育のありかたに関する仮説を提示する」ことが大きな課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
質的データの蓄積とその解釈に向けて、多様なフィールドワーク上のデータのさらなる収集に加えて、協同志向性の育ちに関連する先行研究・資料の収集により一層の努力が必要である。 現在までの質的なデータから読み取れる協働志向性の育ちに影響を及ぼすと予測される生活の中で繰り返される「寄り合い行動」と「待つ」行為の関係性と、保育者の意図性のつながりに対する解釈をどのように深めていくことができるのかを検討していく必要がある。その為には日々の保育に追われるなかで困難ではあるが、参与観察を通して研究者と保育者の対話を中心とした聞き取り調査や、個々の保育者が潜在的に持っている保育の質的な向上に対する考え方を読み解いていくことも求められる。 また、このような視点で読み解く保育の質的な側面に関して、個々の保育者と情報を共有し、意見を求めていくことで解釈の精度を高めていくことを目指す。 フィールドワークの他に、これまでの先行研究を参考にして、今回の生活基盤型保育における協働志向性の育ちをどのようにとらえ、広い視点から多角的に解釈していくことができるよう、質的なデータの分析と仮説の生成に向けた視点を確立し、その方向性を定めていく必要がある。
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