2019 Fiscal Year Research-status Report
生活基盤型保育における協働志向性の育ちに関する質的研究
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19K20972
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | ARIAKE College of Education and the Arts |
Principal Investigator |
菊地 大介 有明教育芸術短期大学, 子ども教育学科, 准教授(移行) (10824120)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 協働志向性 / GTA / 生活基盤型保育 / 寄り合い |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国の保育は大きな制度改革のなかで、これからの保育をいかに創造していくかが問われている。このような流れの中で、非認知的能力の育成が注目を集めているが、それは民主的な社会を形成するために求められる成熟した市民性への土台を育むこと、すなわち豊かな人間形成の重要性を意味している。「生活そのものを教育へ」という立場を取る生活基盤型の保育は、人間形成へのアプローチとして「協働志向性」の育ちを促進することが予測される。協働志向性とは、子どもが空間と時間を共有することで起こる予測に対しての行為と、それを生み出す動機づけを意味する。このような予測は集団の中に生まれる個々の差異を埋め合わようとする行為とそれに伴う自己認識を通して、「相手の気持ちがわかる」ようになることへつながっていく。このような協働志向性は生活の中で成り立つものであると同時に、人間形成への全ての育ちを包括している概念でもある。 本研究ではGTAを用いて、日々の保育から一人ひとり異なる学びの様相やプロセスである協働志向の行為を質的に描き出すことを通して、協働志向性の育ちの構造を捉えることを試みた。 今回のデータからは、自己決定的な要素が高い保育環境では「協働的な活動」の他、葛藤が生じていた。一方で、そこには主体的な活動や予測する行為のある活動が生じやすいことが考えられる。また、予測の行為から活動の楽しさが高まる可能性や、互いにやりたいを満たすかかわりである「寄り合い行動」が見られた。「寄り合い行動」の背景には、ぶつかり合う双方の思いを表現するコミュニケーションが求められるが、その為には子どもの中に安心感を育てること、すなわちアタッチメントの十分な形成が必要である。また、保育者が葛藤を抱えながら子どもと保護者、地域の人々と「寄り合おう」としている姿勢が、このような保育を成立させることを可能にする要因であることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究結果は数えきれない生活の一部分から概念の抽出を試みたものであるが、今回作成したカテゴリー関連図にはまだ推測の域を出ない部分が多く残っている。今回の結果を踏まえてよりふさわしいデータを収集し、カテゴリー関連図を作成するなかで新たに概念を抽出しつつ十分な比較とサンプリングを積み重ね、今回のデータと合わせてカテゴリー関連統合図を作成し、丁寧に理論を生成していく必要がある。 進捗状況の遅れに関しては、研究者の育児休暇取得による当初計画していたエフォートの確保が困難になったことに加え、2019年の台風被害による交通網へのダメージ(通行止めなどの交通規制)と現地における安全確保が困難になったことによる調査の中止、2020年3月以降から現在まで続くコロナウイルス感染拡大防止によるフィールド調査の中断が主な理由として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
質的な視点から生活基盤型保育の構造を描き出そうとする試みは試行錯誤の連続であり、今回作成したカテゴリー関連図にはまだ推測の域を出ない部分が多く残っている。今回の結果を踏まえて、協働志向性の育ちを捉えることにつながるよりふさわしいデータを収集し、カテゴリー関連図を作成するなかで新たに概念を抽出しつつ十分な比較とサンプリングを積み重ね、これまでのデータと合わせてカテゴリー関連統合図を作成し、丁寧に理論を生成していく必要がある。 現在はコロナウイルス感染防止の観点から最も重要なフィールドワークによるデータ収集が困難な状況にあるが、保育者から郵送やメール等で保育に関する情報提供を受け、資料の収集を行っている。 これまでに収集したデータの解析を進めるとともに、コロナウイルス感染防止に関する自粛の解除を待ち、調査フィールドにおける活動再開に向けた準備を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額の発生理由は、研究者の育児休暇取得による研究の一時中断と翌年への研究期間の延長によるものである。また、育児休暇の取得の他に2019年の台風被害による調査フィールドへの交通網へのダメージ(通行止めなどの交通規制)および土砂崩れ等で現地での安全確保が困難になったことによる調査の中止、2020年3月以降から現在まで続くコロナウイルス感染拡大防止によるフィールド調査の中断が依然続いており、フィールド調査に伴う予算の使用が無くなったため、次年度使用額が発生するに至っている。 今後、育児休暇期間とその後におけるエフォートの調整を図るとともに、コロナウイルスの終息後フィールド調査を再開し、次年度期間にフィールド調査が可能な頻度を再検討し、データの収集のために必要な旅費や調査協力謝金として当初の計画に基づき研究費を使用し、有効なデータの収集と分析を推進する。 特に今回の研究は生活基盤型保育における概念の抽出を試みたものであるが、現在までの成果であるカテゴリー関連図にはまだ推測の域を出ない部分が多く残っているため、より妥当性のある理論の生成に向けた現場での十分な時間をかけた参与観察を実施し、得られたデータの解析を進める。
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Research Products
(3 results)