2018 Fiscal Year Annual Research Report
美術作品の内容と表現に関する思考の発達を基礎とした鑑賞教育方法と教材の開発研究
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18H05781
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
小口 あや 茨城大学, 教育学部, 助教 (00825698)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 美術科教育 / 鑑賞教育方法論 / 発達段階 / ワークシート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,小学生から大学生までの美術作品に対する鑑賞態度の傾向を基に,鑑賞指導方法とその教材の開発を目的に行うものである。本年度は,中学生の鑑賞傾向を明らかにし,中学生向けの鑑賞指導方法と教材の開発を行った。 本研究では,美術作品の要素を内容と表現に分けそれぞれの感受を行い,最終的に作品全体の感受に統合する鑑賞方法を提案している。作品内容を感受するために,鑑賞者は作品世界に想像的・観念的自己を入り込ませる。想像的・観念的自己は作品世界で起こることを想像的・観念的に体験し作品内容を感受する。それに対して,作品の表現を感受するのは,作品をあくまでも「作られたもの」として認識する現実的自己である。現実的自己は作品に使われている色や形などを感受する。鑑賞者は自身を,想像的・観念的自己と現実的自己に分裂させて作品と向かい合い,最終的に統合させる。 小学生を対象にこの方法で鑑賞実践を行ったところ,作品の内容を感受した後に表現を感受するという順番が自然であった。まずは想像的・観念的自己が作品と出会い,その後に現実的自己が向かい合うとも言える。しかし,この順番は,中学2年生以上の生徒にとっては鑑賞しにくいようであった。中学2年生以上の生徒は,表現を感受してから内容を感受する方がやりやすかった。これは,この年齢の生徒たちが,先に現実的自己が作品と出会い,それから想像的・観念的自己が作品と向かい合うことを示している。この中学2年生での変容は,他の研究分野にも見られることであった。本研究では,中学2年生での鑑賞傾向の変容に合わせた鑑賞教育方法と教材を作成して実践を行い,その有効性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,美術作品の要素を内容と表現に分けそれぞれの感受を行い,最終的に作品全体の感受に統合する鑑賞方法を提案している。この鑑賞方法論での調査を様々な年齢に対して行った。調査対象者はどの年齢であってもこの鑑賞方法論で作品感受ができた。よって,本研究で提案している鑑賞方法論は,多くの年齢において用いることができることを明らかにした。ただ,調査によって年齢によって作品と向き合い方が変容することも分かった。よって指導方法はそれに合わせて変えていく必要があることも明らかになった。 現在までに,小学校3年生から中学生までの児童生徒を対象に調査を行い,年齢ごとの鑑賞態度の傾向を明らかにした。調査から,小学校4年生と中学校2年生あたりの時期に鑑賞態度の変容の時期があることが確認できた。小学校3年生から中学1年生あたりまでは作品内容を想像的・観念的自己が感受してから,作品表現を現実的自己が感受する。中学2・3年生は現実的自己が作品表現を感受してから作品内容を想像的・観念的自己が感受する。そして,どの年齢においても最終的に作品内容と作品表現から感受したことを統合し,作品全体の感受とする。このような各年齢の鑑賞態度の傾向に合わせ,鑑賞指導方法とその教材(ワークシート)の開発を行い,その有効性を確かめた。これらの研究は,美術科教育学会の学会誌に論文として掲載される予定である。また,現在の時点で,小学校1年生と大学生を対象にした鑑賞傾向の調査,大学生からは調査の他に鑑賞実践も行うことができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,小学校1年生と大学生を対象にした調査を基に,小学校1年生と大学生の鑑賞傾向の違いをつかむ。また,小学校1年生と大学生用の鑑賞指導方法と教材の開発も行う。そして,これまでに明らかにしてきた小学校3年生から中学校3年生の鑑賞傾向を合わせ,本研究での鑑賞方法における鑑賞発達段階を明らかにする。研究のまとめとして,本研究で明らかにした小学生から大学生までの鑑賞発達段階,鑑賞指導方法と教材(ワークシート)を冊子にまとめ,各学校等に配布し現場で役立てられるようにする。
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