2018 Fiscal Year Annual Research Report
日本語の形態処理システム・音韻処理システム間における相互作用の検討
Project/Area Number |
18H05816
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉原 将大 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (70822956)
|
Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
|
Keywords | 音韻処理 / 形態処理 / 文字表記 / プライミング効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,人間の言語機能における音韻処理システムと形態処理システムの相互作用を検討することである。2018年度は,文字という形態表象の獲得前後で音韻処理システムが変化する可能性を検証するため,学習アプローチによる実験(e.g., Rastle et al., 2011)に取り組んだ。現在までに刺激の選定と実験プログラムの作成を終え,データ収集を開始している。 また,漢字表記語を用いてマスク下のプライミング手法による音読課題を実施し,文字刺激の提示時間を操作すると,プライミング効果のデータ・パターンが変化することを明らかにした。マスク下で先行して提示されるプライムの提示時間が短い場合には(e.g., 50ms),プライミング効果は文字と音の対応関係に依存していた。すなわち,プライムと,後続するターゲットの先頭1モーラが同じであるに過ぎない場合には有意なプライミング効果は観察されず(e.g., 角度‐化石),先頭1モーラが同じであり,かつ,先頭漢字の読み全体が同じ場合にのみ,有意な効果が観察された(e.g., 火力‐化石)。しかし,プライムの提示時間が長い場合には(e.g., 2000ms),どちらの場合にも有意なプライミング効果が観察された。これらの結果は,(形態処理システムにおいて)文字に対する処理時間が長くなると,語を「読み上げる」という音韻処理システムにおいて利用可能な音韻情報が変化する可能性を示していた。すなわち,文字刺激がプライムとして短時間提示されたときのように,ごく初期の処理段階においては,音韻処理システムは文字と音の対応関係に基づく全体的な処理を行うのに対して,文字刺激の提示時間が比較的長い場合のように,後期の段階においては,より抽象的な音韻情報(e.g., モーラ)に基づく処理が行われると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学習アプローチによる実験のセットアップが完了し,データ収集を継続中である。現在のところ,文字の学習前後でプライミング効果のデータ・パターンが変化しており,本研究の仮説に整合的なデータが観察されている。 また,文字刺激の提示時間を操作することによりプライミング効果のパターンが変化することを示した研究結果について,国際学会(Psychonomic Society)で発表した。 以上のことより,研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
2018年度に引き続き,2019年度も研究計画に沿って学習アプローチによる実験(e.g., Rastle et al., 2011)を実施し,データの収集に取り組む。データ収集が完了し次第,結果をまとめて国際学会等で発表するとともに,論文の投稿を目指す予定である。 また,文字刺激の提示時間によってプライミング効果のパターンが変化することを示した研究結果について,異なる解釈の可能性が生じたため,追加の実験をおこなうこととする。すなわち,プライムの提示時間による効果の変化は自動的な音韻処理ではなく,実験参加者の意図的な処理方略の違いを反映している可能性がある。そこで,この可能性を検証するため,プライムとターゲットの先頭音が関連するペアと(e.g., 火力‐化石),関連しないペア(e.g., 威力‐化石)をブロック提示したうえで,プライムの提示時間を操作した音読課題を実施する。ブロック提示することにより,実験参加者はプライム‐ターゲット間の関連性に基づく意図的な処理方略を利用することが可能になると考えられる。しかし,2018年度の研究で観察されたプライミング効果のパターンの変化が,意図的な処理方略によるものでなく,自動的な音韻処理を反映するものであるならば,ブロック提示による影響は見られないはずである。こちらについても,データ収集が完了し次第,論文の投稿を目指す予定である。
|