2019 Fiscal Year Research-status Report
日本語の形態処理システム・音韻処理システム間における相互作用の検討
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19K21008
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉原 将大 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (70822956)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 音韻処理 / 形態処理 / 文字 / 学習 / ストループ課題 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,人間の言語機能における音韻処理システムと形態処理システムの相互作用を検討することである。2019年度は前年度に引き続き,文字という形態表象の獲得前後で音韻処理システムが変化する可能性を検証するため,学習アプローチによる実験(e.g., Rastle et al., 2011)を実施し,データ収集をおこなった。 また,カタカナ語とそのローマ字表記語を用いたストループ課題も実施した。ストループ課題において,色名と文字列の先頭音が同じ場合 (e.g., rat printed in red),先頭音が異なる場合に比べて (e.g., fit printed in red),色の命名潜時は有意に短くなることが知られている (e.g., Coltheart et al., 1999)。先行研究においては,日本語を用いたストループ課題では色名と文字列の先頭1モーラが同じ場合に,仮名や漢字といった文字列の種類に関係なく,有意な促進効果が観察されることが報告されていた (Kinoshita & Verdonschot, 2019)。このことから,ストループ課題における音韻処理(i.e., 色命名反応)は,文字列の形態処理による影響を受けないと考えられていた。これに対して本研究では,カタカナとローマ字の間で異なる結果が観察されたことから,ストループ課題が形態処理の影響を受けうることを示した。すなわち,カタカナ語に対してはモーラの共有による促進効果が観察されたのに対し,ローマ字表記語に対しては先頭音その共有による促進効果が観察された。このことは,文字列を無視することが要求されるストループ課題においても,文字表記の種類という形態処理が色の命名という音韻処理に影響を及ぼすことを示していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学習アプローチによる実験のデータ収集が完了し,この他にストループ課題の実験データ収集も完了した。前者のデータは文字の学習前後で音韻処理が変化することを示しており,国際学会 (Psychonomic Society) で発表した。後者のデータも上述のように,形態処理と音韻処理が相互作用することを示すものであり,現在,国際誌に投稿中である。 しかし,国際学会で学習アプローチによる実験データを報告した際,実験計画と結果の解釈に関する重要な指摘を受けたことから,追加実験を行う必要性が生じた。そこで,研究計画を延長し,2020年度も本研究を継続することとした。以上より,全体として研究はおおむね順調に進展しているものの,当初予定した研究計画は完了していないため,進捗はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は学習アプローチによる新実験を実施し,データの収集に取り組む。具体的には,文字表記を学習せず,音韻情報のみを学習する統制群を設けることで,形態処理と音韻処理の相互作用がどのように生じるのかについて,さらなる検討をすすめる。新実験のデータ収集が完了し次第,学習アプローチによる実験結果をまとめて,国際誌に論文投稿を目指す予定である。
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Causes of Carryover |
本研究の目的である「人間の言語機能における音韻処理システムと形態処理システムの相互作用の検討」を達成するために,追加実験を実施する必要性が明らかになったため。次年度使用額は追加新実験における実験参加者への謝礼と,実験補助者の雇用に用いることとする。
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