2021 Fiscal Year Annual Research Report
日本語の形態処理システム・音韻処理システム間における相互作用の検討
Project/Area Number |
19K21008
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉原 将大 東北大学, 国際文化研究科, GSICSフェロー (70822956)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 音韻処理 / 形態処理 / 文字表記 / マスク下プライミング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,人間の言語機能における音韻処理システムと形態処理システムの相互作用を検討することである。2021年度は当初,学習アプローチによる実験を行う予定であったが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大のためデータ収集が困難であった。そこで,2019年度に実施した学習アプローチによる実験結果をまとめることに注力した。 先行研究によれば,我々の音韻表象は形態表象の獲得を通じて変容する可能性がある (Taft, 2006)。すなわち,形態表象を獲得する前の音韻表象は,音声のみに基づいて形成されるのに対して,形態表象を獲得した後は,文字にも依存するようになる可能性がある。この可能性を検討するため,本研究では学習アプローチによる実験を行い(Rastle et al., 2011),実験参加者に無意味図形と,その名前(新奇語)を日本語で学習させた。このとき,音声に基づく学習を先に行い,その後,文字表記(カナor漢字)を学習させた。文字を学習する前後で,マスク下プライミング手法による呼称課題を実施し,プライミング効果の有無が学習の進行に伴ってどのように変化するか検討した。 実験の結果,プライミング効果の有無は文字の学習前後と,学習した文字表記の種類に応じて変化することが明らかになった。すなわち,プライミング効果は新奇語の文字表記を学習した後にのみ観察された。さらに,漢字刺激によるプライミング効果は,新奇語の文字表記がカタカナであった場合には観察されず,新奇語の文字表記が漢字であったときにのみ観察された。これらの結果は,音韻表象が形態表象(文字)の獲得を通じて変容するというTaft (2006)の主張に一致するものであった。 この結果は,音韻処理と形態処理の両システム間に相互作用が存在することを示すものであった。これらの研究成果をまとめた論文を現在執筆中であり,近く国際誌に投稿予定である。
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