2018 Fiscal Year Annual Research Report
中性子星連星合体の電磁波対応天体に対する輻射輸送計算による系統的研究
Project/Area Number |
18H05859
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川口 恭平 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (60822210)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 重力波天文学 / 電磁波対応天体 / kilonova |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子星を含む連星合体に付随する電磁波現象の中でも近赤外線ー可視光で光るkilonovaという現象は、連星合体後の系の進化を反映するため、その光度曲線から強重力、高密度、強磁場、高温の極限環境における物理情報に迫れると期待されている。観測から物理情報を抜き出す為にはその光度曲線を正確に予測し、系のパラメータに対する依存性を明らかにする必要があるが、その整備はまだ十分とは言えない。本研究ではkilonovaの光度曲線を方向依存性や多成分の放出物質の寄与を正確に考慮して予測できる輻射輸送計算コードを用いて、kilonova系統的予測を行い、その光度曲線のパラメータ依存性を明らかにすることで、今後の重力波・電磁波の多粒子天文学の基礎となる理論的整備を行うことを目的としている。 昨年度においては当初の予定通り、各放出成分の質量や速度を系統的に変化させた計算を行い、光度曲線の多様性が明らかにした。得られた光度曲線のデータを共同研究者に提供し実際の観測の解釈に適用するなどの応用も行なっている。さらに得られた光度曲線のデータを元に、放出物質の質量、速度、密度分布、物質構成の依存性を考慮したkilonova光度曲線のフィッティングモデルを導出し、その校正に用いていないパラメータのモデルを比較する事でフィッティングモデルがシミュレーションの系統誤差に比べ十分な精度を持つことを確認した。こうした成果は適宜学会、研究会で発表しており、現在これらの成果をまとめたものを論文として執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度においては当初の予定通り、物質の不透明度を固定し、各放出成分の質量や速度を系統的に変化させた計算を行った。結果、光度曲線の多様性が明らかになった一方、まったく違うパラメータのモデルでも場合によっては似た光度曲線になることなど予想外のことがわかった。さらに昨年度は得られた光度曲線のデータを元に、放出物質の質量、速度、密度分布、物質構成の依存性を考慮したkilonova光度曲線のフィッティングモデルを導出した。具体的には、隣接する質量、速度などのパラメータの光度曲線データを元に、欲しいパラメータの光度曲線をガウシアン過程回帰分析で与える枠組みを構築した。フィッティングモデルによって得られた光度曲線と、その校正に用いていないパラメータのモデルを比較する事でフィッティングモデルがシミュレーションの系統誤差に比べ十分な精度を持つことを確認した。上記の通り、研究は計画通り概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年度に引続き、放出物質のパラメータを系統的に変化させた計算を行う。特に放出物質の不透明度の違いが与える影響に着目して計算を進める。また、得られたフィッティングモデルをベースにベイズ推定によって観測から放出物質の情報を吹き出す枠組みを構築する。さらに最近、放出物質の不透明度を決定するために重要な元素の励起順位の理論計算のアップデートがあった。こうした計算に必要な基礎物理的データや物理的仮定の不定性に起因するシミュレーションの系統誤差の調査も合わせて行い、パラメータ推定によって得られる結果の妥当性や限界を調べる。
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