2018 Fiscal Year Annual Research Report
Formation and evolution of UFDs in cosmological zoom-in simulations
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18H05876
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
平居 悠 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60824232)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 矮小銀河 / 銀河形成 / 銀河進化 / 化学進化 / 元素合成 / 連星中性子星合体 / 電子捕獲型超新星爆発 / rプロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年天の川銀河周囲の局所銀河群銀河群において非常に暗い矮小銀河 (UFD)が数多く発見されている。これらの銀河中には、ストロンチウムやイットリウムなどの比較的軽い中性子捕獲元素がユーロピウムやバリウムなどの比較的重い中性子捕獲元素に比べて富んだ星があることが確認されている。しかし、このような元素組成がどのように生み出されたのかは未だ明らかになっていない。 そこで本年度は、矮小銀河に着目した銀河の化学動力学進化計算に軽い親星由来の超新星爆発として、電子捕獲型超新星爆発のモデルを新たに導入し、銀河進化の観点から軽い中性子捕獲元素の起源天体を制限することを目的に研究を行った。電子捕獲型超新星爆発の質量範囲は恒星進化計算から取得した。初期条件としては、孤立した矮小銀河モデルを用いた。 本研究の結果、鉄の量が太陽組成の千分の一より小さい星においては、ストロンチウムの化学進化に電子捕獲型超新星爆発が主に寄与していることが明らかになった。鉄の量が太陽の千分の一より大きい星においては、電子捕獲型超新星爆発に加えて連星中性子星合体も寄与していることが示唆された。局所銀河群銀河の観測結果と本研究によるシミュレーション結果から、ストロンチウムの総質量に対する電子捕獲型超新星爆発と連星中性子星合体の寄与の割合を見積もると、総質量の20%程度がこれらの天体由来であることが示唆された。さらに、電子捕獲型超新星爆発は、軽い中性子捕獲元素は多く合成するが、バリウムやユーロピウムのような重い中性子捕獲元素は合成しないため、一部のUFDに見られるような高いストロンチウム・バリウム比を持つ星の形成に寄与していることが明らかになった。本研究は、2019年度に実施予定の個々の星を分解するシミュレーションの基礎となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、銀河スケールから個々の星を分解するシミュレーションを行う第一歩として、矮小銀河において異なる種類の超新星爆発の影響を明らかにすることを目的に研究を行った。太陽の8から10倍程度の星が起こすと考えられている電子捕獲型超新星爆発のモデルをシミュレーションに導入し、軽い親星由来の超新星爆発がストロンチウムなどの軽い中性子捕獲元素の化学進化に寄与していることを示した。この結果は既に論文にまとめ、The Astrophysical Journalに投稿中である。 これに加え、化学進化ライブラリ(Saitoh 2016 AJ, 153, 85)の改良を行った。これまでの化学進化ライブラリでは、個々の星まで分解できない銀河形成シミュレーション用に超新星爆発の際の元素合成イールドは、初期質量関数で重み付けした平均値になっていた。新たに実装したモデルでは、星形成の際、確率的に星質量を初期質量関数に従って星粒子に割り振る。さらに、超新星爆発の際は、それぞれの星質量に対応した元素合成イールドを放出できるようにした。これにより、2019年度に行う予定の個々の星まで分解したUFDのシミュレーションを行うことが可能となった。 宇宙論的ズームインシミュレーション用の初期条件も作成した。宇宙論的構造形成シミュレーションを実施し、その中から天の川銀河サイズ及びUFDサイズのハローを切り出した。初期条件の作成には、本科研費を用いて購入した計算機を用いた。これらの初期条件を用いたテスト計算も既に開始している。以上から2019年度中に本科研費に関連した成果を複数の論文にまとめることが可能であり、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、非常に暗い矮小銀河 (UFD)の形成進化史を高分解能な宇宙論的シミュレーションを用いて明らかにする。このために、次のシミュレーション(A)、(B) を実行する。 (A) 天の川銀河全体の銀河形成シミュレーション (B) UFD 周囲のみの高分解能ズームインシミュレーション まず、シミュレーション(A) を実施し、天の川銀河周辺に形成されるUFD候補天体を選択する。続いてシミュレーション(B) を実施し、UFD の星形成史を解析する。これにより、UFD が形成された場所と天の川銀河中心との距離、UFD を持つダークマターハローの質量、密度、UFD が形成された時期が星形成史に与える影響を明らかにする。 さらに、シミュレーション(A)、(B) のr プロセス元素分布を解析し、連星中性子星合体で、銀河系周囲にみられるようなr プロセス元素分布が説明できるかを明らかにする。シミュレーション(A)により、UFDでみられる低いrプロセス元素量の起源を明らかにする。ここでは、UFDと天の川銀河との距離に注目する。天の川銀河に近い環境で誕生したUFDでは、天の川銀河内でrプロセス元素に汚染されたガスにより、UFD内でrプロセス元素放出が起きなくても銀河全体が薄くrプロセス元素に汚染されている可能性がある。そこで、UFDと天の川銀河との距離とUFDの関係を調べ、UFDの低いrプロセス元素の起源を明らかにする。続いて、高いrプロセス元素組成を持つUFDに関してシミュレーション(B)を実施し、UFD中で金属の不均一性が生じる条件と原因を明らかにする。さらに、重力波観測・連星進化計算から得られた頻度、遅延時間分布の不定性を考慮し、連星中性子星合体の性質がUFDのrプロセス元素分布に与える影響を明らかにする。得られたデータは、本科研費を用いて購入するストレージに保存する。
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