2018 Fiscal Year Annual Research Report
超好熱性古細菌由来ペルオキシレドキシンを基盤とする新規人工金属酵素の開発
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18H05987
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
氷見山 幹基 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90828310)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 人工金属酵素 / 金属錯体 / タンパク質 / ペルオキシレドキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
人工の金属錯体触媒をタンパク質に固定した人工金属酵素は、触媒の反応性・選択性をタンパク質骨格の最適化により向上可能である。一方で既存の人工金属酵素は、高温条件の反応に適応できない、タンパク質の高次構造を反映した触媒設計に至っていない、という課題がある。本提案では、超好熱性古細菌由来ペルオキシレドキシンPrxを足場タンパク質とした人工金属酵素開発を計画した。Prxは極めて熱に強いため、高温での利用が期待できる。また、Prxは酸化処理により分子集合状態をコントロール可能であり、人工金属酵素の触媒部位の集積という新たな開発の方向性を展望できる。 本年度はAeropyrum Pernix K1由来Prx(ApPrx)を足場タンパク質として最適化するために、金属錯体を結合する位置を複数箇所検討した。その結果、天然ApPrxの有する50番目のシステインには結合しないものの、123番目のアミノ酸残基をシステインに改変した変異体において、ほぼ定量的に金属錯体を結合可能であることを見出した。この変異体に関しては、結晶構造解析により、詳細な分子構造を明らかにした。また、ApPrxの分子集合状態のコントロールについても有用な知見を得た。ApPrxの十量体を構成するホモ二量体間のアミノ酸残基に変異をかけると、十量体構造をホモ二量体に解離できることを見出した。これは、人工金属酵素の分子集合状態を酸化還元に頼らずコントロールする手法として期待できる。さらに、これまで構造解析がなされていなかったPrxとして、Thermococcus kodakaraensis由来Prx(TkPrx)の結晶構造を解明し、論文を報告した。好熱菌由来のタンパク質であり、ApPrxと異なる十二量体構造を形成したことから、人工金属酵素の新たな足場タンパク質として有望である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ApPrxに金属錯体を結合するために、結合サイトのシステイン残基の位置を複数箇所検討した。天然ApPrxの活性中心であるシステインは、タンパク質空孔内の深くに位置しており、金属錯体が結合しなかった。そこで、まず金属錯体の非特異的結合を防ぐために、天然ApPrxのすべてのシステインをセリンに、メチオニンをアラニンに変換したApPrx_0s変異体を調製した。次に、ApPrx_0sのタンパク質空孔の入り口付近に位置する、123番目のヒスチジンをシステインに変換したApPrx_0s_H123C変異体を調製した。ApPrx_0s_H123C変異体にマレイミド基を有する鉄二核錯体を作用すると、ほぼ定量的に結合可能であることが、ESI-MSおよびICP-AES測定により明らかとなった。ApPrx_0s_H123C変異体に関しては結晶構造解析が完了した。 また、ApPrxの分子集合状態のコントロールについても有用な知見を得た。ApPrxの十量体を構成するホモ二量体間の芳香族アミノ酸残基に変異をかけると、十量体構造をホモ二量体に解離できることを見出した。変異による十量体の解離は鉄二核錯体を結合した人工金属酵素にも適用可能であり、分子集合状態を酸化還元に頼らずコントロールする手法として期待できる。 これまで構造解析がなされていなかったPrxとして、好熱菌由来のTkPrxの結晶構造を解明した。TkPrxはシステイン残基の酸化還元状態に依らず、十二量体を形成することが明らかとなった。TkPrxを足場タンパク質として利用すれば、人工金属酵素の集合様式を十二量体に変換可能と期待される。この内容で論文を投稿し、受理された。 以上のように、人工金属酵素の構築、人工金属酵素の集合様式の変換、ならびに新たな足場タンパク質の構造解析を並行して実施した。論文も発表し、本研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ApPrx_0s_H123C変異体に鉄二核錯体を結合した人工金属酵素(FeFe@ApPrx)の構築が達成されたことから、次のステップとしてFeFe@ApPrxを水素発生触媒として利用する光水素発生反応を実施する。光増感剤のルテニウム錯体と犠牲還元剤のアスコルビン酸をFeFe@ApPrx溶液に添加し、窒素雰囲気下でキセノン光を照射してガスクロマトグラフィーにより生成した水素を定量する。ApPrx_0s_H123C変異体にさらに変異導入を行うことで、FeFe@ApPrxの集合様式を十量体からホモ二量体に変換する。FeFe@ApPrxのターンオーバー数とターンオーバー頻度が集合様式に応じてどのように変化するか調査し、人工金属酵素の活性をその集合状態の制御によって向上可能であるか検証する。FeFe@ApPrxの結晶構造解析を行い、鉄二核錯体の周辺環境に関して知見を得ることで、さらなる活性向上をめざす。 また、人工金属酵素の高温下での利用をめざした研究も推進する。C-H結合のホウ素化を高温下で触媒するイリジウム錯体を、タンパク質に結合できるように設計・合成してApPrxに結合する。マレイミド基を有するイリジウム錯体について、現在合成の最終段階に入っている。このイリジウム錯体をApPrxに結合し、C-H結合を活性化する人工金属酵素Ir@ApPrxを作成する。Ir@ApPrxの形成をESI-MSおよびICP-AES測定によって確認する。Ir@ApPrxを触媒とし、ベンゼン環、シクロプロパン環を有する小分子を基質としたC-Hホウ素化を実施する。その位置選択性に対して、タンパク質骨格の有効性を示し、アミノ酸残基の改変を駆使して選択性の制御をめざす。
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Research Products
(3 results)