2018 Fiscal Year Annual Research Report
機能性配位子を有する鉄錯体触媒を用いた環境調和的酸化システムの構築
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18H05992
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
新林 卓也 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (90824938)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 鉄錯体 / 機能性配位子 / 酸化反応 / 脱水素化 / アルコール |
Outline of Annual Research Achievements |
有機小分子の酸化反応は,有機合成化学における最も基礎的な分子変換反応の一つであり,古くからの研究対象であるが,基本的に化学量論量の酸化剤を必要としており,使用する酸化剤の有害性や生じる副生成物の後処理など,環境調和性の面では未だ改善すべき課題が残されている.近年では,外部酸化剤を使用しない,脱水素的酸化反応が注目されており,主として高価な貴金属触媒が利用されているが,これをさらに実用に耐える合成手法とするために,安価・豊富に存在する鉄を中心金属とする錯体触媒をデザインし,合成に着手した.とりわけ,酸化剤を必要としないアルコール類の脱水素化反応において高い活性を示すヒドロキシピリジン類を配位子として選択し,単純な鉄塩との錯形成反応により目的錯体の合成に成功した.得られた錯体種のアルコール類の脱水素化反応における触媒活性を現在調査しているが,現在のところ貴金属錯体触媒と比較するとその活性は著しく低くとどまっており,有効な触媒系の実現には至っていない.機能性配位子のみではなく錯体の支持配位子の種類を現在種々変更したものを合成し,触媒活性調査を継続して行っている.また,機能性配位子として,アセチルメチルピリジン類やメルカプトピリジン類を検討しており,更に広範囲に渡って探索を続けていく.新規に設計したアセチルメチルピリジン配位子の配位挙動,および錯体の性質を調べるために貴金属ではあるがイリジウムやルテニウム中心への配位を検討しており,イリジウム錯体においては十分に触媒活性を示すことを見出した.本配位子を鉄錯体へと適用することを計画している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
目的としていた錯体触媒の合成については,金属種の異なる類似錯体の合成手法を参考とすることで当初の計画通り十分に達成できており,ヒドロキシピリジン-鉄錯体やジヒドロキシビピリジン-鉄錯体の合成に成功した.得られた錯体の酸化剤を要しない脱水素化反応における性能評価においては,現在のところ優れた触媒活性を示す錯体を見出すことはできていない.鉄錯体を触媒とした脱水素化反応は報告例は少ないもののいくつか存在しており,それらを参考にしながら錯体触媒の性能向上を検討している.単純な鉄塩自体が触媒活性を示す可能性も示唆されているが,触媒性能の再現性,持続性の観点から,構造規定された錯体触媒の基礎的な物性評価,反応性評価が必要である.現在,触媒系開発の点から見ると直接的アプローチではないが,錯体自体の素反応における挙動を精査している.また,当初計画していた機能性配位子としてヒドロキシピリジンをまず用いているが,これに縛られず,水素原子の授受を可能とする候補配位子の探索を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
より高周期遷移金属錯体触媒を用いたアルコール脱水素化反応において有効な配位子であった,ヒドロキシピリジン類を単純に第一遷移金属である鉄を中心とする錯体に適用するのみでは,触媒活性を発現させるのは困難であることが判明してきたため,配位子の設計に工夫を加える.具体的には,ヒドロキシピリジンの同族類縁体であるメルカプトピリジン類の利用を検討している.特に鉄-ヒドロゲナーゼにおいては,チオールが鉄へ配位した構造を示しており,水素原子の移動に有効であるのではないかと考えている.また,鉄の酸化状態が二価と三価を取りやすく一電子移動を引き起こしやすいことを踏まえると,ホモリシスを得意とするチオフェノール構造を配位子に持たせることにより,反応性の向上を期待している. また,鉄-アセチルアセトナートが有効であるという報告例を参考に,アセチルメチル基置換ピリジン配位子を設計し,その触媒性能の評価を行う.
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