2018 Fiscal Year Annual Research Report
生物の同期現象において外れ値が系にもたらす効果の検証
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18H06076
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 達也 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特任研究員 (80824755)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 振動・同期現象 / 外れ値 / シオミズツボワムシ / 個体群変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物には様々な振動・同期現象がみられる.例えば,心臓の周期的な拍動は個々の心筋細胞の拍動が同期することによって実現する.生物における振動・同期現象は数理モデルによって次々に解き明かされつつあるが,多くの場合は実験で観測された値が数理モデルによって完全に再現されない.実際の系では,モデルによって記述された振動・同期現象から独立したような挙動を示す“例外”が観測されるからである.そのような例外は外れ値として議論の対象から除かれる.そのため,外れ値の検出や判定に関する統計学的な手法が発展する一方で,外れ値が生まれる原因や系に与える影響が十分に議論されないままとなっている.申請者はその外れ値の挙動の観察を通して,外れ値が何らかの形で系の維持・安定性に寄与するという仮説を着想した.そこで,本研究では同期している集団の外れ値が系にもたらす効果を明らかにする. 本研究では,単為生殖のみを行うシオミズツボワムシ Brachionus plicatilisの石川株を対象とし,以下の3点を通じてクローン集団における世代交代の同期現象について数理的解析を行い,集団に大きな攪乱が与えられた際の外れ値が系に与える効果を明らかにする. ①シオミズツボワムシ生活史の同期現象の数理モデル化: 個々のシオミズツボワムシの生活史を記述する数理モデルを構築する. ②実測値から例外的な挙動を示す個体の抽出: ①のモデルをもとに,飽食条件でシオミズツボワムシを培養したときの生涯産卵数および寿命の実測値から“外れ値個体”を抽出する. ③個体数変動のシミュレーションによる外れ値の緩衝作用の検証: 外れ値の存在比率をパラメータとして,大きな撹乱(死亡率の急上昇など)を与えた個体群変動のシミュレーションを行う.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,シオミズツボワムシの生活史について連続モデルを構築した.さらに加えて,離散モデルも構築した.これにより,大規模シミュレーションによる個体群の解析だけでなく離散モデルを用いた数学的解析も可能となった.また,シオミズワムシの培養実験によって十分な実測値が得られており,例外的な挙動を示す個体の抽出を計画を前倒して着手できた.
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Strategy for Future Research Activity |
外れ値の存在比率をパラメータとして大きな撹乱(死亡率の急上昇など)を与えた個体群変動のシミュレーションを行い,外れ値個体による緩衝作用を検証する.シミュレーション結果と実測データ(絶食培養や熱ストレス付加した場合)を比較する.
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