2018 Fiscal Year Annual Research Report
神経活動依存的髄鞘形成の分子基盤の解明:脳白質は可塑的であるか?
Project/Area Number |
18H06089
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
杉尾 翔太 神戸大学, 医学研究科, 助教 (30825344)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 神経活動依存性髄鞘形成 / オリゴデンドロサイト・神経細胞活動相関 / カルシウムクロストーク |
Outline of Annual Research Achievements |
脳の半分を構成する白質は神経軸索によって構成される。灰白質を神経情報(シナプス入力)を統合し新たな神経情報(活動電位)を生み出す「発電所」に例えると、白質は神経情報を送る「電線」に相当する。神経軸索はオリゴデンドロサイト(OC)の細胞突起によって髄鞘化されることで、その情報伝導速度が飛躍的に上昇する。脳全体に占める白質の割合は、高等動物になるにつれ増大することから、ヒトが高次脳機能を獲得した背景には、灰白質の進化的発達のみならず白質による情報伝導の高速化が重要であったと考えられる。 これまで白質は神経情報を伝導する「単なる電線」と考えられてきたが、近年、神経細胞とOCおよびその前駆細胞(OPC)とがカルシウム活動を介して連関することで、神経活動に呼応した髄鞘の形成・再編(神経活動依存性髄鞘形成・再編)が生じ、活動電位の伝導速度を可塑的に変化させることで神経回路活動を時空間的に制御という、「可塑的な電線」とも言うべき、新たな概念が生まれている。 本研究では、2光子顕微鏡によるin vivo カルシウムイメージング法を用いて、白質の神経情報伝導速度に可塑的変化をもたらす神経細胞-OPC・PC間のカルシウム活動連関を明らかにすると共に、その分子基盤を明らかにすることを目的とする。このために、平成30年度はOC・OPCに緑色蛍光カルシウムインディケーターを発現する遺伝子発現マウスを導入した。このマウスの神経活動を、運動学習や光遺伝学・化学遺伝学的手法を用いて人為的に変化させ、その過程のOC・OPCカルシウム活動をin vivo 2光子イメージング法で記録し、OC・OPCのカルシウム活動変化とマウス個体の行動変化との相関を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を進めるにあたり、①どのような神経細胞-OC・OPC間のカルシウム活動連関が髄鞘形成を制御するのか、②活動連関によってOC・OPCにもたらされる変化の実態は何か、③神経細胞やOCのカルシウム活動を時空間的に制御することで白質の伝導速度を人為的に操作し、高次脳機能を操作することが可能なのか、という3つの問いを設定している。これらの内、平成30年度は、主に①と②の設問に対する研究計画を実施すると共に、設問③の研究計画を実施する上での基礎となるデータの取得および実験系の構築を進めた。 まず、緑色蛍光カルシウムインディケーター(GCaMP6)をOC・OPCに発現するマウスを導入し、2光子in vivo Ca2+イメージングの実験系を構築した。また、申請者が所属する研究室で既に稼働しているマウスの行動学習装置を使用することで、現在では覚醒下のマウスを用いて運動学習を習得する過程のOC・OPCのin vivo Ca2+イメージングが日常的に実施でき状況が整い、データ取得・解析を進めている。 神経細胞-OC・OPC間のカルシウム活動を同時に記録するために、神経細胞に赤色蛍光カルシウムインディケーター(RCaMP)をアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)にて導入することを試みたが、2光子イメージングに耐える十分なRCaMPの発現が得られなかった。そのため、代替え法の確立を進めている。 最後に設問③を明らかにするために、チャネルロドプシンに代表される光遺伝学ツールや改変ムスカリン受容体に代表される化学遺伝学ツールをマウスに発現させる実験系の構築を進め、神経細胞に関してはAAVを用いることで再現性良く発現させることが可能な状況となっている。また、光刺激用の実験機器についても当研究室で既に稼働している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、現在までの進捗状況から概ね順調に進展していると考えられる。しかし、研究を進める過程で、申請時に想定していた方法では、神経細胞に十分量の赤色蛍光カルシウムインデケーター(RCaMP)が発現しないことが明らかになった。そのため代替え案として、AAVを用いて1)他の赤色蛍光カルシウムインディケーター(jRGECO)、あるいは2)GCaMPと赤色タンパク質をニューロンに発現させ神経細胞とOC・OPCを区別した上で両者のCa2+イメージングを行う方法の確立を進めており、2)の方法で一定の成果が出てきている。また、神経活動依存性髄鞘形成を人為的に制御するため、チャネルロドプシンを神経細胞およびOC・OPCに発現させる。現在OC・OPCへの発現法を検討している。具体的には、1)OC・OPCに高い感染性を有するAAVカプシドセロタイプを導入、2)OC・OPCにチャネルロドプシンを発現する遺伝子改変マウスの導入、の2つの方策を進めている。後者に関しては既に他のグループから論文報告されていることからも、研究を推進に影響を及ぼさないものと考えられる。また、チャネルロドプシン以外に神経細胞およびOC・OPCのカルシウム活動を操作する方法として、化学遺伝学的ツールの導入も並行して進めている。 これまでの、 in vivo カルシウムイメージングの結果から神経活動の変化に伴ってOC・OPCの一部の細胞突起のカルシウム活動が時空間的に変動することが見えてきた。したがって、光遺伝学的にOC・OPCの活動を時空間的に操作する必要性が生じた。そこで、従来の光刺激法に加えて当研究室で開発が進められている新たな光刺激法を用いて、神経活動・OC・OPCのカルシウム活動の操作を試みる。 以上、神経活動依存性髄鞘形成を制御する神経細胞-OC・OPCカルシウム活動連関を明らかにすべく研究を推進する。
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