2019 Fiscal Year Research-status Report
医薬リード分子の網羅的創出を指向した酵素模倣型カルボン酸変換反応の開発
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19K21218
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小島 正寛 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (90824714)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 光反応 / 金属触媒反応 / 医薬化学 / late-stage官能基化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は開始当初、医薬品やバイオマスに広く存在するカルボン酸の触媒的脱水素反応を行い、有用な新規医薬リード、および資源分子の創出を目的として設定していた。これを実現するための鍵となるテクノロジーとして、コバルト触媒と光触媒の協働触媒作用を研究の主眼として設定し、この協働触媒作用を実現するコバルト触媒の設計、およびコバルト触媒との共同に適する光触媒の探索を集中的に検討した。その結果、目的とする脱水素反応の実現に成功しただけでなく、その他の興味深い触媒反応の発見につながった。 1つ目の発見として、コバルト触媒と有機光触媒の協働作用により系中発生させた低原子価コバルト触媒による、アリル位アルキル化反応があげられる。2019年度にはアリル位アルキル化反応の応用研究として、これまでの触媒系では変換難易度が高かったアリルスルホン誘導体の統一的な変換を可能とする反応系を確立し、Synthesis誌への論文発表、および2回の学会発表を行った。 2つ目の発見として、当初計画した脱水素反応の逆反応に相当する、コバルト触媒と光触媒の協働による触媒的水素化反応があげられる。水素化反応は水素ガスと希少金属(パラジウム、ロジウムなど)を用いる反応は古典的に確立されている一方で、こうした先行研究は爆発性や貯蔵に課題を持つ水素ガスの使用を必要とする点や、合成化学的に価値の高い官能基に対し許容性が限られている等の問題を残していた。今回発見した水素化反応はこうした既存の水素化反応とは異なる性質を有している点で価値が高い。この水素化反応の成果については1回の学会発表を行った。 以上の2つの知見を得たことに加え、現在主たる研究対象としている「コバルト触媒と光触媒の協働触媒系」に関してTrends in Chemistry誌に総説を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
コバルト触媒と光触媒の協働作用によるアリル位アルキル化反応については、確立されたパラジウムやイリジウムの触媒系と比較し、炭素-硫黄結合の切断を伴う反応系において、申請者の発見した触媒系がより優れた反応性と位置選択性、および広い基質一般性を有することを確認することができた。これは長年に渡り研究が継続されている金属触媒アリル位置換反応における、未解決問題に解決策を提示した点で意義深い成果といえる。 コバルト触媒と光酸化還元触媒の協働触媒系を用いた有機分子の変換反応の検討を行う中で発見した水素化反応について反応条件を精査した所、興味深い官能基許容性を有する水素化反応が、広い基質一般性かつ良好な収率で進行することを見出した。爆発性や貯蔵の問題を有する分子水素を用いることなく、古典的な反応条件では低反応性のアルケンを可視光照射下という穏和な条件下、変換できるという本触媒系は現代有機化学においても高い価値を有するものと想定され、医薬化学において価値の高い、新たな水素化の方法論を提供しうるものと想定している。
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Strategy for Future Research Activity |
コバルト触媒と光触媒の協働による水素化反応について、その高い官能基許容性と穏和な反応条件を最大限に活用し、複雑化合物のlate-stage官能基化への応用を行う。具体的には医薬品分子および天然物のlate-stage変換への応用を行い、当初の研究計画とは一線を画す新たなアプローチで医薬品リード化合物の網羅的合成を目指す計画である。更にタンパク質のモデルとしてアミノ酸誘導体やペプチド誘導体、また核酸のモデルとしてヘテロ環や糖含有化合物の変換を試み、発見した触媒系が生体高分子の存在条件下でも機能するか否かを検証する。有望な結果が得られた場合、修飾生体高分子の直接的変換への応用を検討し、新たな生体直交性反応の方法論としての活用を目指す計画である。まずは水素化反応を主たる研究対象として設定する予定であるが、その後は水素化以外のヒドロ官能基化への応用の範囲を広げ、より広汎な医薬用分子の創出手法へと発展させる計画である。
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Causes of Carryover |
本研究計画の遂行中、適切な構造を有するコバルト触媒と光触媒の協働により、当初目的反応としていた脱水素反応の逆反応に相当する、アルケンの触媒的水素化が進行することを見出した。そのため研究の実施期間を延長し、新たに見出した水素化反応についても追加して実験的検討を行いたい。「コバルト触媒を用いた水素移動反応」というより大きな枠組みの中で検証することで、本事業の成果をより学術的に完成度の高い状態とした上で、水素化反応についての成果発表を行う。これに必要な追加実験、および成果発表に関わる費用に翌年度分の助成金を充てる計画である。
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Research Products
(11 results)