2018 Fiscal Year Annual Research Report
糸球体上皮細胞特異的転写因子MafBによる慢性腎臓病への治療応用
Project/Area Number |
18H06230
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
臼井 俊明 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50825099)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 糸球体上皮細胞 / MafB / 転写因子 / 慢性腎臓病 / 誘導剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、① MafB を糸球体上皮細胞に過剰発現させることで、巣状糸球体硬化症(FSGS)発症に対して保護的に働くかを調べること、② 有効なMafB 誘導剤を選定すること、③ MafB誘導剤がFSGSモデルマウスに対する保護作用があることを示すことで、ヒトのFSGSを始めとした慢性腎臓病への治療応用に活かすこと、である。 ① ネフリンプロモーターを用いた糸球体上皮細胞特異的MafB 過剰発現マウス(TG マウス)を作製し、TGマウスの単離糸球体ではMafbの発現量が野生型(WTマウス)マウスより増加していることを確認した。FSGSマウスモデル(アドリアマイシン腎症)を誘導したところ、TG マウスで腎障害が軽減して尿蛋白量が減少しており、MafB を糸球体上皮細胞に過剰発現させることで、巣状糸球体硬化症発症(FSGS)に対して保護的に働いていることを確認した。 ② マクファージの培養細胞株でMafB誘導作用が知られているRARのアゴニストがMafB を誘導することが知られている。しかし、糸球体上皮細胞でMafB の誘導が可能かは不明であった。そこで、糸球体上皮細胞株においてRARのアゴニストであるオールトランスレチノイン酸(atRA)でMafB を誘導可能かの検討を行い、糸球体上皮細胞株においてもMafBのRNAレベルでの発現量が増加することを確認した。 ③ WTマウスにアドリアマイシン腎症を誘導し、MafB 誘導剤を投与することで腎症に保護効果があるかどうかを調べ、保護効果があることを確認した。アドリアマイシン腎症の誘導による糸球体上皮細胞のMafB 発現低下が、MafB 誘導剤投与で改善することを、単離糸球体のMafbの発現量を調べることで確認した。 以上の結果を2018年の第61回日本腎臓学会学術総会で発表・報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に記載した MafB を糸球体上皮細胞に過剰発現させることで、巣状糸球体硬化症発症(FSGS)に対して保護的に働くかという問いに対して、ネフリンプロモーターを用いた糸球体上皮細胞特異的MafB 過剰発現マウス(TG マウス)を作製した。TGマウスの単離糸球体ではMafbの発現量が野生型(WTマウス)マウスより数倍増加していた。巣状糸球体硬化症マウスモデル(アドリアマイシン腎症)を誘導したところ、WTマウスと比較してTGマウスで腎障害が軽減し、尿蛋白量が減少していた。以上の結果から、 MafB を糸球体上皮細胞に過剰発現させることで、巣状糸球体硬化症発症(FSGS)に対して保護的に働いていることを確認した。 また、当研究室から報告したMafBの誘導剤としての作用がマクロファージで報告されているRARのアゴニストであるatRAをマウスの糸球体上皮細胞株に投与して培養したところ、糸球体上皮細胞株においてもMafBのRNAレベルでの発現量が増加することを確認した。 WTマウスにアドリアマイシン腎症を誘導した直後からatRAを投与したところ、糸球体障害が軽減し、尿蛋白量の減少効果が得られた。またatRAを投与した群では、マウスの単離糸球体のMafB発現量が増加していた。 以上から、atRAで糸球体上皮細胞にMafBを誘導する誘導剤としての働きをもつこと、atRAで糸球体上皮細胞にMafBを誘導することで、FSGSに対して腎保護的な役割を果たした可能性が高いことを証明する結果を得ることができた。 転写因子MafBを誘導剤を用いて糸球体上皮細胞に誘導することが、FSGSも含めた糸球体上皮細胞の障害によっておこる慢性腎臓病の治療ターゲットになりえる結果を得ることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今回MafBの誘導剤として用いたatRAをヒトの巣状糸球体硬化症発症(FSGS)や慢性腎臓病の治療に臨床応用するには、以下の課題が残されている。1)atRAは、高容量投与で細胞毒性があり、肝機能障害や脂質異常症などが報告されていること、2)atRAの作用機序は多様性があり、現段階では、腎保護作用が、MafB誘導効果以外による要因があることを否定し得ないこと、の2点である。この課題を克服するために、下記の計画を実施する予定である。 1-1)マウス糸球体上皮細胞株で、最も効率よくMafBを誘導する事ができるMafB誘導剤の検証を行う、1-2)左記で有効と考えられたMafB誘導剤について、マウスに投与を行って有効な投与量や投与期間の検証、および副作用発現の有無の検証を行う。 2)MafBを糸球体上皮細胞特異的に欠損させたマウスを作成して、そのマウスに巣状糸球体硬化症マウスモデル(アドリアマイシン腎症)を誘導し、atRAを投与しても腎保護作用が得られなくなることを確認する。 という計画を立てている。 また、MafBを糸球体上皮細胞に過剰発現させることで腎保護効果が得られる分子メカニズムを明らかにするために、転写因子であるMafBの標的遺伝子の解析を進める。判明した下流遺伝子の発現量を、糸球体上皮細胞特異的MafB 過剰発現マウス(TG マウス)やMafBを誘導したマウスの糸球体上皮細胞株で確認を行う。 以上の研究計画を実施して、成果を査読付き国際学術雑誌に報告することを目標とする。
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