2018 Fiscal Year Annual Research Report
膵癌の早期診断及び術後予後マーカーの同定とその臨床応用に向けた研究
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18H06247
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
高尾 幹也 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究施設、病院並びに防衛, 外科学, 助教 (70821924)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 膵癌 / 早期診断 / 予後マーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
浸潤性膵管癌(以下膵癌)は他の癌と比較して悪性度が高く、極端に予後不良な「21世紀に残された消化器癌」と言われ、その対策は急務である。膵癌細胞の分子的背景は不明な点が多く、その特性を解析して非侵襲的早期診断や治療効果の向上に繋げる技術開発が求められている。 そこで本研究では、膵癌患者の手術検体組織に加えて、手術前後に末梢血検体を採取し、日本発の技術である包括的高感度転写産物プロファイリング(High Coverage Expression Profiling: HiCEP)法を活用し、かつ次世代シークエンサーを組み合わせた新規の高感度解析法により、高悪性度である膵癌に特異的な分子を探索することを目的とする。 HiCEP法では、高感度かつ網羅的、定量的な発現解析を行うことが可能であり、実験の再現性も非常に高いという特徴がある。しかし、得られたピークの解析には、再度の電気泳動によるピークの個別分取と精製、シークエンシングが必要であり、これまでは転写物の配列決定に時間と手間を要した。そこで本研究において、ヒトにおいて初めてとなるHiCEP法の新たな解析手段を行った。すなわち、通常のHiCEP解析に加え、HiCEP法の途中で作成される全cDNAフラグメント(256対のプライマーを用いて網羅的に増幅されたcDNAの集合体)を対象に次世代シークエンサーで配列及びサイズを決定し、これによりHiCEPフラグメントのカタログ化を行った。カタログ化された情報を既に全配列が決定されているヒトゲノムにおいてアノテーションすることにより、ピークに該当する転写物の同定を、効率的に、かつ高い確率で行うことができるようになった。 この新規の高感度解析法により、癌部での発現が非癌部での発現と比較して増加している共通のピーク(転写物)、及び減少している共通のピーク等の発現解析を進めることが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においては、膵癌手術検体を癌部と肉眼的非癌部に分けて採取している。昨年度までに49検体採取することができ、今年度も採取を継続していく。さらに血液検体は担癌状態の有無での差を検討できるよう術前、術後1週間、術後1ヶ月以降の計3回採取している。それぞれの検体において、total RNAを抽出後にcDNAに転写し、発現解析を実施している。 膵癌6症例の手術検体から採取した癌部、肉眼的非癌部の計12検体に対して、HiCEP法での発現解析を実施した。術前化学療法を受けた1症例を除いた5症例で共通して、非癌部と比較し癌部で3倍以上発現が増加しているピークを7個、癌部と比較し非癌部で3倍以上発現が増加しているピークを9個同定することができた。次世代シークエンサーを用いたHiCEPフラグメントのカタログ化により、得られたピークの配列を決定することができた。これら配列決定された遺伝子のうち、今まで膵癌との関連が報告されていない新規遺伝子として、癌部において発現が増加している遺伝子2個、非癌部において発現が増加している遺伝子5個を候補遺伝子として同定することができた。 また、膵癌の他、腎癌においても同様の手法で発現解析を進めている。腎癌においては、全6症例で共通して非癌部と比較し癌部で5倍以上発現が増加しているピークを16個認めた。これらの中で配列決定された遺伝子のうち、今まで腎癌との関連が報告されていない新規遺伝子を4個同定することができた。 さらに、HiCEP法で解析した膵癌の計12検体と同6症例の術前・術後の採血に関して、一般的に行われている既存の手法であるRNA-seq法でも解析を行っており、HiCEPでの発現解析結果と比較検討を行っている。 これらの研究成果を、2019年6月の第31回日本肝胆膵外科学会・学術集会と9月の第78回日本癌学会学術総会において発表を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今回のHiCEP法と次世代シークエンサーを組み合わせた新規発現解析方法におけるデータベース構築により、発現量や遺伝子の種類等、様々な条件で遺伝子発現の変化を検出することができるようになり、候補遺伝子を絞ることが可能となった。また、症例における病期診断や病理診断、治療効果等の臨床データを対比させ、その関連について解析・検討を行う。 また、一般的に行われている既存の手法であるRNA-seq法で行った膵癌検体の解析結果とも比較検討することにより、候補遺伝子の検索を行う。 それら候補遺伝子について再現解析を行い、まずRT-PCR法(SYBR Green)により他検体での発現を解析する。 さらに、探索した候補分子の生体における働きを見るため、in situ hybridizationや免疫組織化学染色により膵癌組織における局在解析を行う。また、必要に応じて、細胞レベルでのin vitro発現実験により候補分子の生理学的または病態学的機能を検討する。 また今回の手法により、膵癌症例の術前・術後血液検体でも同様に網羅的発現解析を進めていく。 これらの研究の結果、得られた研究成果を取りまとめ学会や論文での発表を行う。
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