2018 Fiscal Year Annual Research Report
iPS細胞の細胞内レドックス制御を基盤とした新規骨再生法の開発
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18H06271
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡辺 隼 東北大学, 大学病院, 医員 (30822241)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 人工多能性幹細胞 / 酸化ストレス / 骨芽細胞分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
補綴前処置として、広範で大規模な顎堤吸収や歯槽骨欠損を再建する顎堤増生術が臨床的に求められている。しかしながら、既存の顎堤増生術の効果は未だ十分ではなく、幹細胞を用いた新規骨再生技術の開発に期待が寄せられている。人工多能性幹細胞(iPS細胞)は自己組織化により、試験管内で三次元的な石灰化骨様組織を形成するが、骨芽細胞分化誘導効率の低さが課題である。近年、細胞内活性酸素種(ROS)は細胞内レドックスバランスを破綻させることで酸化ストレスを引き起こすだけでなく、幹細胞の運命決定に重要な役割を担うことが示されている。そこで、細胞内レドックス環境を制御することで、iPS細胞の骨芽細胞分化誘導を促進するアプローチを着想した。本研究の目的は、細胞内レドックス制御によるiPS細胞の骨芽細胞分化誘導技術を開発し、新たな顎骨再生技術の基盤を確立することである。 初年度では、まず、抗酸化物質添加がiPS細胞の分化に及ぼす影響をRT-PCR法にて評価した。未分化維持培地中での培養において抗酸化物質添加群で中胚葉系のマーカーの発現の増加を認めた。次に、抗酸化物質添加がiPS細胞の骨芽細胞分化に及ぼす影響の検討を行った。当研究室で確立している骨芽細胞分化誘導法に則り、さらに実験群として抗酸化物質を添加し14日間の培養を行ったところ、抗酸化物質添加群においてAlizarin Red陽性領域の増加を認めた。また、比色カルシウム定量を用い評価し、抗酸化物質添加群において有意なカルシウム量の増加を認めた。同様の条件にて7日間の培養を行い、von Kossa染色を行ったところ、抗酸化物質添加群であきらかなカルシム塩の沈着の増加を認めた。本研究成果は、抗酸化作用がiPS細胞の骨芽細胞分化を促進している可能性を示す知見であり、これをもとに次年度の研究を展開する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画通り、まず細胞内レドックス環境の調節分子として働くシスチン/グルタミン酸トランスポーター(xCT)遺伝子をPiggyBacトランスポゾンベクターシステムを用いてマウス歯肉由来iPS細胞に導入を試みたが、導入遺伝子の特性上導入効率が低く、xCT遺伝子導入iPS細胞株の樹立には至らなかった。 そこで現在、代替法として当初より計画していた細胞膜透過性小分子抗酸化物質を応用し、細胞内レドックス制御による効率的なiPS細胞の骨芽細胞分化誘導法の検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の学術的「問い」は、①骨芽細胞分化誘導したiPS細胞の各分化段階の細胞内レドックス環境はどのような状態か、② 抗酸化性小分子化合物はiPS細胞の細胞内レドックス環境を制御できるか、③細胞内レドックス環境を制御することによりiPS細胞の骨芽細胞分化能は促進するか、④細胞内レドックス状態が制御されたiPS細胞から分化誘導して得られた骨芽細胞は骨再生を促進するか、という点である。これらを解明するため本年度ではiPS細胞の骨芽細胞分化過程における細胞内レドックス環境の評価、細胞内レドックス環境の制御がiPS細胞の骨芽細胞分化に及ぼす影響および、細胞内レドックス制御により分化誘導した骨芽細胞の生体内における機能の検討を下記の方法で行う。 1. iPS細胞の骨芽細胞分化過程における細胞内レドックス環境の評価; マウスiPS細胞において当研究室で確立している骨分化誘導法に則り、各分化段階における細胞内レドックス環境を細胞内シスチン濃度、グルタチオン濃度、細胞内ROS濃度を吸光光度試薬、蛍光試薬を用いて評価する。 2. 抗酸化性化合物がiPS細胞の骨芽細胞分化に及ぼす影響の検討; iPS細胞を前述と同様の骨芽細胞分化誘導培地中で培養する。そこで、抗酸化性化合物の濃度・添加時期の最適化、骨芽細胞分化能及び骨基質産生能への影響を評価する。評価方法として、real time RT-PCR法にて骨芽細胞分化関連遺伝子発現を解析し、カルシウム定量法、Alizarin red染色、von Kossa染色を用いて骨基質産生能を評価する。 3.生体内における得られた骨芽細胞の機能評価; 上記の結果より最適化した分化誘導法により得られたiPS細胞由来骨芽細胞の骨再生能を大規模マウス頭蓋骨欠損モデルを用い、組織学的(HE染色、免疫染色)および、マイクロCT(骨形成、骨密度評価)にて検証する。
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