2018 Fiscal Year Annual Research Report
ケトン食は加齢性骨格筋機能低下に対する新規介入方法となりうるか
Project/Area Number |
18H06444
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nippon Sport Science University |
Principal Investigator |
鴻崎 香里奈 日本体育大学, 体育研究所, 助教 (30739769)
|
Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
|
Keywords | 骨格筋 / 神経筋接合部 / ケトン食 / サルコペニア |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢性筋機能低下症(サルコペニア)は、各種疾患の誘因であるとともに健康寿命を低下させることから、その予防が急務である。またサルコペニアには筋機能低下のみならず支配神経の変性が関与することから、筋に加え支配神経の機能維持・改善が重要であると考えた。本研究では、神経系疾患や代謝異常症への治療法として用いられてきたケトン食(KD)に着目し「KDが骨格筋と神経へ作用する分子メカニズムの解明と、KDによる骨格筋と神経の機能低下の抑制」に挑むこととした。 2018年度は、培養骨格筋細胞におけるケトン体の作用機序の解析および②生体においてケトン食が骨格筋、神経、神経筋接合部へ及ぼす影響の解析を検討課題とした。 課題①を検証するために筋細胞(C2C12)を培養・分化させケトン体を添加し、分化後の筋管細胞に出現する神経筋接合部の形成に変化が生じるかを検討した。その結果、ケトン体を添加した筋管細胞としていない筋管細胞では、両条件間で神経筋接合部の形成数が異なる様相を観察した。 次に検討課題②を検証する前に、C57BL/6Jマウスを対象としてKD介入の適切な条件を決定することとした。KD(糖質: 0%,脂質: 90%,タンパク質: 10%)または通常食(糖質: 80%,脂質:10%,タンパク質: 10%)を12週間摂取させその後解剖を行なった。期間中、2週毎に実施したインスリン負荷試験では、KD群(n=6)は6週間目において血糖値が通常食群(n=7)より有意な低置を示し、12週間時点での血糖値は通常食と相違なかった。また12週の時点で摘出した腓腹筋を、神経と筋を架橋する神経筋接合部の形成に寄与するPGC-1αやMuSKタンパクの発現をウエスタンブロット法にて通常食群と比較したところ、群間に有意な差は確認されなかった。以上からKDが身体へもたらす影響は、介入期間によって異なる可能性が示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、ケトン体が骨格筋PGC-1α活性とミトコンドリア生合成に与える影響を分子レベルで解析することを目的として2つの検討課題を設定した。培養骨格筋細胞を用いた実験では、筋細胞(C2C12)を培養・分化させケトン体を添加し、分化後の筋管細胞に出現する神経筋接合部(NMJ)の形成に変化が生じるかを検討した。その結果、ケトン体を添加した筋管細胞としていない筋管細胞では、両条件間で神経筋接合部の形成数が異なる様相を観察した。当初の仮説に示したケトン体がPGC-1αやミトコンドリア関連タンパクの増加が観察されるかについては、これから検証を行うことで十分に期間内に分析が終わると考えられる。また生体を用いた実験では、ケトン食の適切な実施条件を決定するために9-11週令のC57BL6Jマウス13匹を用い、12週間の食事介入を実施し(ケトン食群=6匹、通常食群=7匹)2週毎にインリン負荷試験を実施した。期間中に週ごとの血糖値変化を追跡することで、ケトン食による身体応答を簡易的に評価した結果、6週間目においてインスリン感受性が向上し、12週間目ではインスリン感受性が低下していた。また12週間目で摘出した骨格筋を対象として、NMJの形成時に多く発現するタンパクを評価したところ、通常食群と相違なかった。したがってケトン食による適切な介入期間を6週間に設定し、骨格筋、神経、神経筋接合部へ及ぼす影響を今後解析する。介入条件の検討を優先したため解析が年度をまたぐこととなってしまったが、適切な条件を見出すことができたため、今後の解析はスムーズに進む予定である。したがって大きな遅れは生じておらず、結果を得られていることから概ね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに残っている解析を継続すると共に、ケトン食が加齢に伴う神経筋接合部破綻や神経機能低下を抑制するかを検証していく。特に今年度は自然老化マウス(ジャクソン社より購入予定)を用いる。自然老化マウス20匹を、通常食群(9匹)とケトン食群(9匹)に群わけする。介入期間は6週間とし、ケトン食摂取時に観察される生理学的な変化(血中ケトン体濃度の上昇、血糖値の変化など)の評価も実施し、ケトン食による介入条件が適切であるかも判断する。また分析はミトコンドリア生合成や機能(呼吸機能,酵素活性)、神経筋接合部の変化などを中心に生化学・病理学的な解析手法を用いる。また、ケトン食の作用機序に関与するとされるmTORやSirtシグナルの解析も実施する。さらにケトン食介入によって、骨格筋症状および神経、神経筋接合部の変性がどの程度消失するかを新たに評価する。その指標として主に筋タンパク質の分解シグナル(ユビキチン・プロテアソーム系やオートファジー)、神経および神経筋接合部の変性時に発現量の増加が見られるマーカー(心筋型トロポニンT)を解析する。また研究全体を通して、その他解析を行う必要が生じた場合速やかに取り入れる。
|