2018 Fiscal Year Annual Research Report
ゲーム理論における限定合理性への統計力学的アプローチ
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18H06476
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上田 仁彦 京都大学, 情報学研究科, 助教 (00826571)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | ゲーム理論 / 繰り返しゲーム / ゼロ行列式戦略 / 不完備情報ゲーム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は繰り返しゲームにおけるゼロ行列式戦略の数学的性質を調べる研究を行った。ゼロ行列式戦略は2012年に発見された新しいクラスの戦略であり、プレイヤーの平均利得の間に一方的に線形関係式を課す戦略である。しっぺ返し戦略のような戦略の一般化となっている。ゼロ行列式戦略に関しては、これまで囚人のジレンマゲームや社会的ジレンマゲームにおいてその存在や進化的安定性が調べられてきたが、ゲームの構造によらない一般的な性質はあまり議論されてこなかった。本研究では、線形代数学的な手法を用いることにより、任意のゲームにおけるゼロ行列式戦略の「整合性」と「独立性」という二つの性質を解析的に証明することに成功した。整合性は、複数のプレイヤーがゼロ行列式戦略を採った場合に、ゼロ行列式戦略によって課される線形利得関係式の連立方程式は必ず解を持つという性質である。独立性は、複数のプレイヤーがゼロ行列式戦略を採った場合に、それらの与える利得関係式は互いに独立のものであるという性質である。以上の結果は完備情報ゲームだけでなく不完備情報ゲームにおいても成り立つ。また、線型代数学的枠組みの応用として、高次元のゼロ行列式戦略が存在することも具体例を通じて示した。これまでに知られていたゼロ行列式戦略は1人のプレイヤーが1つの線形関係式を課すという1次元のものであったが、我々は1人のプレイヤーが2人の平均利得を同時に制御するというこれまでよりも強いゼロ行列式戦略が存在することを示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において挙げていた2つの課題のうち、ゼロ行列式戦略に関するものは本年度の研究により完遂できたと言えるだろう。当初は矛盾したゼロ行列式戦略を複数のプレイヤーが採ることによって平衡への緩和が行われなくなると予想していたが、本年度の研究により、矛盾したゼロ行列式戦略は存在し得ないことが理論的に証明できてしまった。当初の予想とは逆の結果が得られたが、ゼロ行列式戦略の代数学的構造に関する重要な成果であるので、現在論文として投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は研究計画において挙げていたもう1つの課題、限定合理的なゲームにおけるダイナミクスの特徴づけを行う。カオス力学系や軌道の統計力学を概念を用いて均衡に至らないダイナミクスの研究を行う。 また、ゼロ行列式戦略の研究も引き続き行う。ゼロ行列式戦略は必ずしも合理的な戦略ではないので、限定合理性の観点からの研究が必要である。「どのような状況でゼロ行列式戦略が採られ得るか」「現実的なゲームにおいて高次元ゼロ行列式戦略で有用な例が作れるか」「ゲームが与えられた時にゼロ行列式戦略の存在を判定する簡単な基準はあるか」などの問いに答えたい。
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Research Products
(8 results)