2018 Fiscal Year Annual Research Report
放射線影響評価のためのタグチメソッドを応用した新規リスク評価法の開発
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18H06500
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
神崎 訓枝 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 核燃料・バックエンド研究開発部門 人形峠環境技術センター, 研究職 (70826510)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | タグチメソッド / 放射線 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,放射線理解促進のため,タグチメソッドを応用した被ばくによる健康損失を評価する新規放射線リスク評価法の開発が目的である。そこで,本研究では,放射線リスクを健康損失と新たに定義し,放射線の有害な効果と有益な効果の両効果を損失関数で定式化するため,リポ多糖(LPS)誘導炎症モデルマウスが被ばくした際の被ばく影響を評価する。平成30年度は,必要なデータ取得に向け,8週齢・オス・BALB/cマウスを用いた動物実験を行い,データをまとめた。まず,マウスにLPS(25μg,100μg,200μg)の腹腔内投与により全身性炎症を起こした。死亡率は25μg投与で0%,100μg投与で46%,200μg投与で100%であった。このとき,生存しているマウスについて,LPS投与によって炎症マーカーであるC反応性蛋白(CRP)が有意に増加していることを確認した。次に,被ばく影響はX線(0.1Gy,0.5Gy,3.0Gy)の全身照射4時間後の影響を評価した。このとき,X照射によるCPRに変化は見られなかった。さらに,LPS投与24時間後に炎症を起こしているが生存していたマウスにX線の全身照射を行い4時間後の影響を評価した。LPS100μg投与で増加したCRPはX線照射により0.1Gyで減少傾向が見られたが,その他のX線照射条件では増加傾向が見られた。LPS投与とX線照射の処置条件を制御因子とし,望小特性SN比を求めると,0.1Gy照射された群でSN比が最大になり,低線量放射線による被ばくはLPS誘導炎症を抑制していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LPS投与は全身性炎症を誘導するが,文献調査により設定したLPSの濃度では,死亡率が100μg投与で46%,200μg投与で100%と予想以上に炎症が悪化しており,全データを取得することが出来なかった。そのため,放射線曝露において,X線照射とラドン吸入を予定していたが,ラドン吸入実験はデータを精査した後に行うこととした。しかし,得られたデータは,低線量放射線被ばくは炎症を抑制する可能性があるというこれまでの報告に合致しており,平成31年度に予定している損失関数算出のための下準備に着手できた。データの有効性が確認できたことで,タグチメソッドを応用した被ばくによる健康損失を評価する新規放射線リスク評価法の開発の目処がたった。次年度は,ラドン吸入実験を実施し,これまでの結果をふまえ,放射線の有害な効果と有益な効果の両効果を定式化した損失関数の算出を目指したいと考えている。以上より,本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度での研究成果から,本研究の実験系で放射線被ばくは照射条件によって有益な効果と有害な効果の両効果があることを示せることがわかった。また本実験で得られる結果をタグチメソッドの概念で解析し,新たな放射線リスク評価法の提案が期待できることが明らかとなった。平成31年度は,ラドン吸入実験を実施し,すでに得られたX線照射実験の結果と合わせて,放射線被ばくの健康損失を定式化する。ラドン(α線)とX線の線質,内部・外部被ばく,線量率での被ばく影響の差を明示し,従来のリスク評価法と照らし合わせて,本提案手法の有効性を検討する。得られた成果は,国内外の学会等で報告する。
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