2019 Fiscal Year Research-status Report
美術史と神経科学の協働実験美術史―カラヴァッジョ絵画の鑑賞者の心の深層を探る―
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19K21605
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小佐野 重利 東京大学, 相談支援研究開発センター, 特任教授 (70177210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀田 達也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (20214554)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 実験美術史 / カラヴァッジョ絵画 / 絵画鑑賞者 / 眼球運動計測 / 脳機能イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元(2019)年の交付申請書に記載したとおりに、絵画画像を見る被験者の視線活動について予備的なデータ(絵のどのような部分が注目されがちかについてのデータ)を得るため、予備実験をおこなった。それには、研究分担者の研究室備え付けの視線計測装置(Tobii TX600)を使った。あくまで、令和2(2020)年度に実施予定のfMRI本実験のための予備データ収集の実験である。2019年末までにカラヴァッジョ絵画10点、カラヴァッジョレスキの絵画10点、さらに現代美術との比較のため、モンドリアン絵画10点を選定して、fMRIにも装備可能な範囲の画素数(4K相当)のデジタル画像を入手し、①オリジナル画像から、②画像の一部分の色を変更、③画像の一部分を消去、した加工画像を作成した。研究代表者、研究分担者および研究協力者がそれらの出来上がりを確認し、美術史学にとって意味のある評定・行動測度について具体的に実験での注目点等を詰めた。そのうえで、美術史の学生(Expert)5名と社会心理学の学生(Novice)6名を対象に、視線活動の計測実験をおこなった(2020年2月上旬)。これは、fMRI実験のプロトコルを開発する第一歩である。 交付申請書で年度内に予定していた予備的なfMRI実験は、大学での新型コロナウイルス感染症の予防対策上、実施不可能となった。 そのため、視線計測装置による予備実験結果をもとにfMRI実験の吟味内容についての検討に集中した。検討の結果、fMRI実験では、Noviceに比べてExpertでは視線の範囲が狭いという予備実験の知見に焦点を当てる方針が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、2019年度に予定していた、絵画画像を見ているときの眼球運動を計測する予備実験を行った。予備実験の結果を研究分担者および研究協力者と検討したところ、とくに、Noviceに比べてExpertでは視線の範囲が狭い傾向があることが示唆された。そのため、fMRI実験ではフリーに絵画を鑑賞する条件も追加することとした。課題とあわせて詳細なデータ分析を可能とするように実験計画をブラッシュアップすることができた。 2020年3月初めより、大学が新型コロナウイルス感染症の予防対策を打ち出し、予備的なfMRI実験の稼働が不可能となったために、研究計画が遅れることになった。予備的な実験においても、10名ほどの被験者には、90分ほど同実験機器内に入っていただき、実験者および補助者が立ち会うため、身体的な接触および近くでの会話は避けられないからである。 そのため、我々はfMRI実験の内容と時間スケジュールについて検討し、MRI装置が使用可能になりしだい開始できる態勢を整えている。
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Strategy for Future Research Activity |
予備実験の結果より、実験参加者にフリーに絵画を鑑賞する条件では、視線範囲の違い、絵画主題への注目など、ExpertとNoviceに有意な相違が予想される。このことから、フリーに絵画を鑑賞しているときの脳活動も計測して、課題パフォーマンスと課題時の脳活動と合わせて分析する。これらから、カラヴァッジョ絵画鑑賞時における脳活動を、①物理的特性を反映する部分、②Expertise(専門的知識)の部分、そして③カラヴァッジョ絵画による部分へと分離することを目指す。 fMRI実験は、MRI装置が使用可能になりしだい開始する。
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Causes of Carryover |
当該年度の支出予定額「その他(1,500,000円)」は、当初予定していた実験のためにfMRI使用課金として支払う予定であった。しかし、2020年3月からの新型コロナウイルス感染症予防対策として大学がとった方針に実験実施にかかる制限があり、それにより、同機器fMRIの設置されて大学施設の利用が禁止されたため、未支出となった。令和2(2020)年度に延期した同実験の実施によって支出する予定である。旅費の予定額に満たない支出も、同じく新型コロナウイルス感染症予防対策上、出張等旅費による移動ができなくなったためである。
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