2021 Fiscal Year Research-status Report
美術史と神経科学の協働実験美術史―カラヴァッジョ絵画の鑑賞者の心の深層を探る―
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19K21605
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小佐野 重利 東京大学, 相談支援研究開発センター, 特任教授 (70177210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀田 達也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (20214554)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | 実験美術史 / カラヴァッジョ絵画 / 絵画鑑賞者 / 眼球運動計測 / 脳機能イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2(2020)年度実績状況報告の「5. 研究実績の概要」に記した予備実験2の眼球運動計測結果の分析については、研究代表者の新刊書『絵画は眼でなく脳で見る―神経科学による実験美術史』(みすず書房 2022年4月8日刊行)の終章末のコラム(pp. 146-148)に研究分担者亀田達也と研究協力者小川昭利の記名文「カラヴァッジョの絵画は視線を誘導する」として掲載した。 今年(2021)度も新型コロナウイルス感染症の猖獗状況が続いたため、当初の計画にあったfMRIを使う本実験は、大学内施設の入構制限と、被験者が最低1時間半、同機器内に入って実験者と会話しながら進める実験が感染予防上、極めて危険なため、実施できないことになった。 このため、研究代表者と研究分担者は、別のパイロットランを計画し実施した(大学の研究倫理審査承認済)。鳴門市の大塚国際美術館の来館者に、最新のメガネ型アイトラッカー(Tobii Pro Glasses 3 Wireless 100Hz)を装着していただき、同館に展示された千点以上の複製名画から数点を自由に鑑賞する際の眼球運動の計測を行い、解析は解析ソフト(Tobii Pro ラボ)でおこなった。実験参加者は6名で、ほとんどが絵画鑑賞の初心者である。最初に自由に鑑賞し、途中から実験者が鑑賞中の絵画に関して質問をするという実験方法をとった。実験に使ったアイトラッカーにはマイクが内蔵されていて、眼球運動計測データとともに計測中の音声を同時録音した。解析ソフトのFixationフィルターで、眼球運動の追跡をgaze plotとheat mapとして可視化するとともに、その動画編集を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
上記の5.に記載のとおり、新型コロナウイルス感染症の猖獗状況が依然として続いたため、当初計画にあったfMRIを使う本実験が年度内に実施できなかったので、補助事業期間延長承認申請書(①当初計画の遅延・変更 事由【9】)を提出し、承認されている。 別途パイロットランとして大塚国際美術館で実施したメガネ型アイトラッカーによる計測実験の解析結果のうちで、本研究課題の中心画家カラヴァッジョの《聖マタイの召命》の実物大の複製絵画に関しては、25歳男性被験者による鑑賞行動を眼球運動の解析動画データと鑑賞中の質疑応答の録音から、以下のことが判明した。被験者に問いかける前の解析動画から、被験者の応答どおりに、まず画面中央の羽飾り帽子をかぶる若者に視線を注ぎ、その後、キリストの指差す右手を一瞬見てから、もう一度若者に、次いでその隣の髭の人物とその左隣の立った人物へ、それから最近の美術史研究では聖マタイと見做されているテーブル左端の金銭勘定に熱中する若者の順に視線を注いでいることが確認できた。たった一例の実験データではあるが、《聖マタイの召命》には画家カラヴァッジョが観者に挑戦的な仕掛けをしくんでいたと想定していたとおりの実験結果となった(前掲書、pp. 143-145)。
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Strategy for Future Research Activity |
研究分担者や研究協力者と、令和4(2022)年度中に当初計画したfMRIをつかった本実験を必ず遂行することを確認した。 このため、これまでは学内他部局が設置管理するfMRIを課金借用して実施することを考えていたが、それに拘泥せず、玉川大学脳科学研究所に新規に設置されたMRI (Siemens社 の最上位機種Prisma、eyelink付)を課金借用し、かつ同研究所教員を実験者に加えて実施する算段をしている。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症が終息をみない中で、最終目標のfMRIで被験者を使った実験が当初の研究期間内でできないため、研究期間を1年延長を承認してもらって目標を達成するため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(1 results)