2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K21623
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Research Institution | The National Museum of Modern Art, Tokyo |
Principal Investigator |
坂口 英伸 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 研究員 (00646440)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | セメント美術 / セメント彫刻 / 野外彫刻 / 屋外彫刻 / 小野田セメント株式会社 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究1年目にあたる2019年度は、戦後の野外彫刻展を中心に研究を実施した。戦後の物資不足あるいは物資供給が不安定な時期にあって、セメントは戦前・戦中期から引き続き使用されたことは注目すべきである。戦後の野外彫刻展の先駆けとなったのは、日比谷公園を主会場に行われた「春の野外彫刻展」(主催:東京都、協賛:小野田セメント株式会社)である。この野外彫刻展の様子を撮影した紙焼写真は、現在、太平洋セメント株式会社(前身の一つが小野田セメント株式会社)が所蔵している。本研究では、紙焼写真に写された被写体(作品)について、作品名・制作者・制作時期・制作場所・制作経緯などを調べた。また、当時の野外彫刻展の担当者に面会し、野外彫刻展に関する情報、作家や作品にまつわる秘話などを収集した。
調査の結果として判明したことは、野外彫刻展の開催地が東京のみならず、関西・中京・中国・九州などの地域に及んでいたこと、それら開催地の在住作家が出品したこと、地方開催がセメント彫刻の地方への浸透を促したこと、野外彫刻展に出品された作品が、さまざまな理由や経緯で全国各地に寄贈あるいは買い上げられたこと、などである。1970年代に入るとセメント美術の勢いは弱まるが、1940年代末から1960年代にかけて、セメントは、戦後彫刻の重要な素材であった。特に白色セメントの純白さに、平和や国土回復などの明るいイメージと可能性が託されたことも指摘しておかなければらないだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査研究の成果は、学術論文(査読付き)と新聞連載の執筆という形で公表した。学術論文は主に研究者を対象読者とするが、新聞連載は研究者に限定されない幅広い読者層が想定される。多様な人々に向けて、研究成果の発信を心掛けた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目にあたる2020(令和2)年度は、1年目の時期よりも時代を遡り、戦前の事例を研究の中心に据えようと考えている。特に1923(大正12)年の関東大震災後から1945(昭和20)年の終戦を考察の時期としたい。この時期には、耐震性への関心の高まりや、不足する金属の代用素材としての需要の高まりを背景として、セメントの使用が盛んになり、作品の幅も広がりを見せた。さまざまな事例を調査し、研究に深化させたい。
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Causes of Carryover |
調査の初年度に当たる本年度は、研究基盤を確立することを目的に、資料と備品の購入に重点を置いた。残金の679円は次年度分資金として、無駄な支出をしないように心掛けたい。
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