2020 Fiscal Year Research-status Report
近世英国と日本における書物文化の偶発的パラレリズム研究
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19K21631
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Research Institution | Yamanashi Prefectural University |
Principal Investigator |
高野 美千代 山梨県立大学, 国際政策学部, 准教授 (10289811)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | Richard Brathwaite / 若者向け作法書 / 苗村丈伯 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は近世の日英で若者向けに書かれた作法書の部類に属す書物の比較研究を行い、その成果を論文にまとめた。 17世紀以降、日英両国において若い男女が知識教養を身に付けられるような作法書の普及が見られるようになった。具体的には、若い男性向けの『イングランドの紳士』The English Gentleman、若い女性向けの『イングランドの淑女』The English Gentlewomanがリチャード・ブレイスウェイト (Richard Brathwaite, 1587/8-1673) によって著され、日本では苗村丈伯(生没年不詳) による『女重宝記』、『男重宝記』が1690年代に世に出されたことを並列して考察した。 ブレイスウェイトの著書は、イタリアルネサンス期の教養ある宮廷人を模範とし、それを英国の紳士淑女のあり方にいわば応用して読者の徳性を涵養していくものとなった。中世から近世へと移行する中で、新たな規範を求めようとする時代の要請に応える内容であったことは間違いない。17世紀の日本においてもそれは同様で、とくに17世紀後半には文治政治のもと、洗練された礼儀作法を身につけることが人々の関心事に含まれるようになり、それは上層階級に限定されない範囲に及んでいった。重宝記は、文学・芸術・学芸が花開いた元禄時代の頃に流行が始まった。知識が重視され、教育が重んじられるようになったことを『女重宝記』、『男重宝記』の普及から読み取ることができる。『女重宝記』が版を重ねた背景には女性による読書の文化の広がりがあり、また、『男重宝記』に関して言えば、商業と都市の発展によって、商人として台頭していく男性にとって、たしなみや行儀作法の知識が必要とされる時代となったことが示唆されるものと考えられる。近世という時代が東西で作り上げた現象を書物を通して証明していく試みとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は予定していた英国での現地調査・共同研究は実施できなかったが、一方で、文献資料の精読、論考の執筆・投稿等は順調に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
不足している文献資料を国内外において収集し、日英書物史の考察を深める。英国の研究協力者との共同研究を発展させ、文献収集を含む現地調査も可能な限り展開したいと考えている。近世の日英出版事情に関連して、出版者によるブックリストの比較研究を行っている。この論文は英国で出版される書籍のチャプターとなるので、出版後は国外からのフィードバックを広く受けることが可能となることを見込んでいる。ブックリスト研究と同時並行して、日英における廉価出版物による情報の流布に関して、作品を分析し、その受容の状況について比較検討を進める。さらには日英両国における近世の書物蒐集について具体的な考察することを計画している。いずれも国際的な研究ネットワークにおいて成果を上げていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
予定していた出張がほぼすべてキャンセルとなり、出張先で文献資料を収集することもかなわず、2020年度研究費の支出が予定していたよりも減少した。 2021年度は、不足する文献資料を収集するほか、世界的に状況が変わり国際的な移動が自由になれば、海外出張を行い、また海外研究者を招いて国際研究集会を開催するなどして、研究を取りまとめていく計画である。
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