2019 Fiscal Year Research-status Report
Quantitative reexamination on the basis of conditional allophony
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19K21641
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
前川 喜久雄 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 音声言語研究領域, 教授 (20173693)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 条件異音 / リアルタイムMRI動画 / 『日本語話し言葉コーパス』 / 音韻論 / 音声学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画に沿って、現在構築中の『リアルタイムMRI日本語調音運動データベース』と公開済の『日本語話し言葉コーパス』を用いて、日本語の条件異音に関する定量的な分析を進めた。 MRIデータを利用した研究としては、日本語の語末に生じる撥音の調音位置が口蓋垂であるとする定説が成立せず、直前の母音の調音位置に影響された調音が行われていることを、国際会議ICPhSで発表し、その後、加筆した論文を国際学術誌JIPAに投稿した。また国際音声学協会のハンドブックに記載された日本語ラ行子音に関する記述が誤っていることを日本音声学会の全国大会で発表した。この研究は2020年度前半に学術誌への投稿を予定している。 『日本語話し言葉コーパス』を用いた研究としては、日本語のアクセント句頭に生じるピッチ上昇の幅が句頭音節の種類によって変動する現象をとりあげた。この変異は、従来想定されてきた二値的な変異ではなく、連続的な変異であることを2018年に発表していたが、今回は、この変異を生み出す原因が、句頭音節の特性ではなく、句頭のピッチ上昇の勾配を一定に保とうとする制約が日本語に存在するためであるとの仮説を立て、それを定量的に立証した。また、このような制約がなぜ生じたかという問題を検討し、言語情報とパラ言語情報の交互作用がその原因であるとの仮説を提唱した。この論文は、2020年度前半に学術誌への投稿を予定している。 また当初計画以外のテーマとして、東京方言などにおいて「ヒ」と「シ」の混同が生じる原因を声道の冠状面(coronal plane)の特性と結びつけて、流体力学的に解明する研究にも着手した。このテーマに関連して、従来のMRI実験では収集していなかった声道冠状面(coronal plane)に関する形態情報の収集を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ申請書に記載した計画どおりに進展している。成果発表は順調であり、当初計画以外の研究テーマへの発展もあった。問題点としては、リアルタイムMRIデータの収集が予定通りに実施できなかったことが挙げられる。これは実験を行っている㈱ATR-Promotionの事情により、2019年度後半にMRI装置の稼働率が約半分に低下したために、利用時間の確保が困難になったことと、年度末にはコロナウイルス感染症により、実際上実験実施が不可能になったことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も当初計画に沿って推進する。2020年度は最終年度にあたるので、できるだけ多くの成果を公開する。今後投稿予定の研究としては「研究実績の概要」欄に記入した、日本語ラ行子音に関する分析と句頭ピッチ上昇に関する研究がある。これらにくわえて日本語の条件異音全体を概観する解説論文を執筆することも考えられる。 「概要」欄に記載した声道冠状面の情報収集は是非継続したいと考えているが、コロナウイルス感染症のために、現時点では、MRI装置を利用することができずにいる。状況の推移を見ながら、機会をとらえて実施するが、2020年度末までに機会を得られない場合は、研究期間の延長を考えることにしたい。
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Causes of Carryover |
従来からデータ収集のためにMRI装置を利用している㈱ATR-Promotionの社内事情によりMRI装置の稼働率が半分に低下したこと、および年度末におけるコロナウイルス問題によって、MRI装置によるデータ収集が十分に行えなかったことが理由である。装置の稼働率はちかく元に復する予定であるが、コロナウイルス問題については予想が困難である。機会をとらえて実験を実施し、それが無理な場合は、研究計画の延長を考えることにする。
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Remarks |
クロスアポイントメントで勤務していた東京外国語大学で開催したリアルタイムMRI動画を用いた音声研究をテーマとした講演会のホームページ。
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Research Products
(5 results)