2021 Fiscal Year Research-status Report
遺跡出土アスファルトの高精度原産地推定法の開発と先史流通システムの解明
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19K21644
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
上條 信彦 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (90534040)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
南 武志 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (00295784)
高橋 和也 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 特別嘱託研究員 (70221356)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | アスファルト / 縄文時代 / イオウ同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
①遺跡出土アスファルトの記録・観察・形状分析、各産地試料の収集、機関との調整による所蔵考古資料の集成 本年度は横浜市埋蔵文化財センター、山形県埋蔵文化財センター、秋田県立博物館、大仙市教育委員会、北秋田市教育委員会の協力を得て、出土資料の観察、形状分析を行ったほか、試料採取を実施した。下記②の通り、これまでの装置開発によって超微量試料でも分析が可能となった。これによって、アスファルト塊だけでなく、石鏃や土偶、石製品の接着剤として塗布された微量な試料でも文化財的に重要な箇所を残しつつ分析できるようになった。そこで、サンプル数の多い山形・秋田県域の分析を進め、本研究で得られている知見に対し量的な安定性を確保することで、実証性の高い議論ができるようにした。横浜市の出土アスファルトは、アスファルトであることが確認された資料集成を行った現在、最も南限に位置する。特異な出土状態であることからも、本資料を評価することが関東地方との交流を探るうえでも重要と判断される。原油サンプルの提供については、金沢大学と北海道大学の博物館に打診を行った。この作業の結果、原油サンプルを保管する大学については、現状ほぼ全て情報や試料の提供が完了した。 ②各油田試料および、遺跡出土アスファルトに対する微量のイオウ同位体比分析による高精度産地推定技術の開発 本研究では、第二段階として分析法の定着だけでなく、非破壊が望ましい文化財にも適用できるように0.1mgの微量かつ水溶液にできない試料でも対応できるように開発してきた。結果、分析感度として、0.1mg程度のアスファルト試料でも分析が運用できるようになった。昨年度に引き続き、出土アスファルトと油田試料と比較した結果、整合的なデータが出ており、本分析法が出土アスファルトの産地推定に有効であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新型コロナの影響による施設閉鎖があり、分析に遅延が生じた。また、当初予定していた出土アスファルトの南限地のひとつである関西方面での調査ができなかった。しかしながら、コロナが落ち着いた夏頃に、集中的に調査、分析を進めた結果、上記以外の調査が完了したほか、当初計画になかった自治体からの分析依頼によって、現地調査が難しかった地域の試料提供や、新たに出土した試料の分析追加が生じ、結果的に不足していた試料分析を補うことができた。上記によって、着実に結果が出ており、論文など公表する素地が全て整えることができたため、今回の判断に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究によって、分析法の開発、運用、考古資料の応用まで一貫した流れを確立することができ、当初目的はほぼ達成したと考えられる。今後は、考古資料の分析量を増やし、よりミクロな視点での交易ルートを解明する。そのほか、弥生時代以降の試料にも分析範囲を拡大することで、交易形態だけでなく、これまで貴重材から語られてきた交易体制を日常材の視点から見直すことにつながる。そして、それを支配した社会構造の解明にまで一石を投じることが可能となる。またアスファルト利用は、国内だけでなく中東などの産油地が多い国外でもみられる。本研究で開発した微量分析法は、文化財に影響を与える範囲が小さいため、こうした地域でも本分析が用いることができ、文化財試料分析に新しい道筋をつけることにつながる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により、予定していた研究施設での試料採取ができなかった。また、研究所の休業により分析ができなかったほか、薬品や部品の交換など解除後の設備稼働までに時間を要したため。次年度は機器の継続的稼働が見込めるため、試料を恒常的に分析できるほか、調査出張も対策のうえで実施する予定である。
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Research Products
(3 results)