2020 Fiscal Year Research-status Report
化学分析と数理統計解析に基づく高精度かつ簡便な考古学石材の原産地推定法の確立
Project/Area Number |
19K21651
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
亀井 淳志 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (60379691)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
隅田 祥光 長崎大学, 教育学部, 准教授 (80413920)
岩本 崇 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 准教授 (90514290)
内藤 貫太 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (80304252)
三瓶 良和 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (00226086)
芝 康次郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (10550072) [Withdrawn]
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
Keywords | 古墳 / 黒曜石 / 蛍光X線分析 / 原産地判別 / 数理統計解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の二年次目では,新型コロナウイルスの影響により野外調査計画を大きく変更した.西南日本各地の黒曜石原産地調査に関しては,島根県隠岐の島の調査のみを実施し,島根県外の調査を取りやめた.ただし,調査で得られた隠岐6地点の黒曜石原産地試料に加え,一年次目に中国地方~九州地方13地点で採取していた黒曜石原産地試料のXRF分析は順調に完遂できた.原産地推定法を確立するには十分な分析数を揃えた形となった.既存研究との比較によって,含有量の低い元素を用いた原産地推定法は各分析機関の分析手法や装置の性能の違いによって不確実性が高まることが明らかとなった.また,基準値となる原産地試料の分析数が少ない場合,これも原産地推定では問題となる可能性が見いだされた.今後の多変量解析においてもこの影響について注視する必要が出てきた(理想的には低含有量の組成を用いない方が良く,また基準値となる原石資料データは3~5つの岩石を分析していた方がよい). 一方,島根県出雲地方に散在する石棺式古墳の岩石記載調査,およびそれらの原産地と目される周辺地質調査については,昨年度に引き続いて大々的に拡大する計画へ変更した.昨年度に原産地推定で威力が認められた帯磁率測定も行い,大幅なデータ拡充を実現できた.古墳石材および地質試料については当初計画をはるかに超えるXRFデータを獲得でき,古墳石材の原産地推定の精度が格段に上昇した.このデータベースには,既存研究で報告されている地質試料の化学分析データを160試料分コンパイルして組み込み,強化することも行っている.また,原産地推定法に関して,高正答率かつ簡便・簡易な手法開発に向けたオープンソース・フリー統計解析ソフト「R」での検討を計画通り開始した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
隠岐の島を含む中国地方~九州地方の黒曜石原産地研究については,全19地点の黒曜石原石についてXRF分析を実施した.既存研究による「原産地推定のための化学的判別図」では,Rb,Sr,Zr,Mn,Fe,Mgなどの各元素に有効性が認められており,本研究においても同様の事を確認した.ただし,含有量が極めて低い場合,例えばSrが10ppm未満やMgOが0.1wt%未満などでは,分析機関ごとに分析法や装置性能が異なるため注意を要することが判明した.また,隠岐産黒曜石のデータ拡充によって,既存研究では化学組成の異なる別個の原産地とされた2箇所が,実は化学的に連続する一続きのマグマ組成変化に含まれることなども判明した.したがって,原産地推定においては指標となるデータ数の扱いにも注意を払う必要があることが示された.黒曜石試料のLAラマン解析については,試料の前処理準備を更に進めた. 島根県出雲地方の古墳石材研究では出雲市~松江市にかけて分布する代表的な石棺式石室(30カ所)の詳細な現地調査を実施し,さらに石材の原産地候補と推定される松江~出雲地方の久利層流紋岩類,大森層砂岩,大森層デイサイト,大森安山岩,牛切層砂岩,和久羅山デイサイトなどの地質調査を実施した.携帯型カッパーメーターによる帯磁率測定では,肉眼観察にて同一石材に見える岩石を区別できるケースが認められた.また,古墳石材試料(20試料)および地質試料(50試料)のXRF分析を昨年度に引き続いて追加し,さらに既存研究に公表されている地層の化学分析データを160試料分コンパイルして,原産地推定のための多変量解析の精度を飛躍的に高めた.一方で,地質調査およびデータ収集の作業を拡大したことにより,石材の化学的風化に伴う組成変化の検討は次年度に持ち越すこととした.以上より,総じて計画通りに研究は進んでいると判断している.
|
Strategy for Future Research Activity |
三年次目では,現在懸案事項となっている「化学組成を用いた石材の原産地判別に影響すると予想される化学的風化作用」を検討する.具体的には,(1)Chemical Index of Alteration (CIA) = Al2O3×100 / (Al2O3 + CaO + Na2O + K2O) (分子比)を指標として原産地推定の解析に耐えられるCIAの限界値の特定,および(2)強風化試料におけるHFS元素等(風化耐性のある元素)を用いた原産地推定の有効性を検討する.また黒曜石研究では,LAラマンを用いた内容物の同定を進めて,原産地推定への有効性を検討する.さらにオープンソース・フリー統計解析ソフト「R」での多変量解析についても,岩石種が異なる古墳石材の場合と,岩石種が同一である黒曜石の場合での違いなどを検討する. 研究の最終段階では,出雲型石棺式石室の成立に対し,従来議論のある石室伝来と6世紀中頃の石材調達・流通に係わる社会・文化の解明に向けた理化学的事実を整理する.西南日本の黒曜石原産地解析では,正答率の高い解析法確立に向けた多変量解析を検討する.これらの成果は,解析手順についても平易に解説した公表を目指す.
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により,本研究の主担当者が島根県の県境を越えて野外調査できない状況となり,また共同研究者らも一同に会してデータを検討する等の作業が困難となった.各学会における研究発表の機会も少なかった.これらによって,調査旅費,研究会旅費,学会旅費,分析消耗品費などに大きな変更が生じた.さらにレーザーラマン分析では試料調整にかかる大きな経費が必要とならなかった.このようなことが総じて当初予定額よりも小額で研究が進行した.本課題の進捗については,黒曜石関係では一年次目に広域的な調査を終えていたことが幸いし,古墳石材関係では当初計画に無かった古墳調査・地質調査が大幅に拡大できたなどがあり,結果的には良い方向に進んだ部分もある.最終年度では繰り越し予算と次年度予算を合算しながら効率のよいXRF分析を可能とする分析装置の改良等を行い,本研究の質と速度の向上を目指す.
|
Research Products
(28 results)