2019 Fiscal Year Research-status Report
陸域炭酸塩の年輪を用いた年代推定法と地域的環境影響検出法の開発
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19K21661
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
勝田 長貴 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70377985)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 理 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (00293720)
森本 真紀 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (30377999)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 火山 / 炭酸塩 / 河川水 / 源泉 / 安定同位体分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
人類の活動は、気候変動と密接に関係してきたことが古文書などの記録によって明らかにされてきた。しかし、気象観測記録が得られない歴史時代の気候を知る手掛かりとして、樹木、珊瑚、氷床・氷河の年輪から得られる代替指標が良く使用されている。これに匹敵する年代決定精度を持ち、人類の活動の場である陸域の気候や環境復元を行える媒体として、縞状炭酸塩堆積物のトゥファが知られている。トゥファは、汎世界的に分布する石灰岩地帯や火山・温泉地帯に普遍的に存在していることから、古気候学で課題とされる古気候記録の地理的偏在の補間が期待されている。その一方で、トゥファの形成年代については、炭素源である石灰岩や火山ガスからのCO2には放射性炭素が含まれないことから、従来の樹木や珊瑚なで利用されてきた放射性炭素年代法を適用することができない。また、それに代わる年代決定法として、鍾乳石や石筍の炭酸塩ではウラン・トリウム法が利用されてきた。しかし、高い空隙率を持つトゥファの炭酸塩では、234U-230Thに対して開放系であるため、年代決定は困難であることを応募者らの研究によって明らかにしてきた。これにより、トゥファにより復元できる代替指標の記録は、採取した年から遡って数十年間に限られていた。この課題を克服するために、本研究では、河床で現在生成中のトゥファと河岸段丘涯に埋没する古トゥファの高分解能安定同位体比分析により、古トゥファ形成年代法と地域的環境影響検出法(温泉地帯の場合は火山活動、石灰岩地帯の場合は土壌有機物生成)を構築することを目的とした。本年度は、対象地域の浅間火山の源泉と河川水の安定同位体比分析を実施し、トゥファ堆積場の水は源泉水の影響を受けている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、浅間火山の濁川源泉から下流4 kmの範囲に設置した7つの観測定点において、採水及び水質観測を実施した。観測は、8月、10月、12月、2月に行われた。8月の観測では、浅間火山の噴火警戒レベルが2に引き上げられ、濁川源泉2箇所と下流2箇所は立ち入り禁止となり、観測を実施できなかった。水の化学分析は、陽イオン・陰イオン濃度である。水の安定同位体比分析については、水同位体比分析計を用いたH2O-δ18O分析、S-IRMSによるBa固定試料のSO42--δ34S分析、炭酸塩-IRMSによるBa固定試料のDIC-δ13C分析を実施した。 トゥファ堆積場における水の化学成分については、水温の季節変動に伴って、Ca濃度、アルカリ度、DO濃度は夏季に向けて減少傾向、冬季に向けて増加傾向を示す例年どおりの結果を得ている。これは、トゥファ方解石の生成が水温上昇に伴うCO2溶解度の低下で説明することができる。一方で、同地点の水のH2O-δ18O、DIC-δ13CとSO42--δ34Sについては、水温変動に伴う変動は認められなかった。このうち、H2O-δ18Oは年間を通じてほぼ一定に推移した。SO42--δ34Sについては河川流量と負の相関性が見られ、年間を通じて河川流量が最も低下する4月においてSO42--δ34S値が最高値を示すことが明らかとなった。SO42--δ34Sは源泉から下流にかけて減少傾向(35‰から28‰)を示すことから、4月のSO42--δ34S値の上昇は河川流量の減少による源泉水の希釈効果の低下によるものと考えられる。また、同様の関係性はDIC-δ13Cと河川流量でも若干認められた。今回の結果は、トゥファ堆積場の水源泉水の影響を強く受け、それがトゥファ年輪方解石に保持されている可能性を示唆する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度も引き続き、浅間火山・濁川源泉とその下流域での2ヶ月ごとの調査・試料採取と、水の化学分析・安定同位体比分析に継続する。今年度は4月以降の新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言により、4月と6月の観測は中止した。現時点では、8月以降に再開を予定している。これにより、前年度に得られたトゥファ堆積場における水のDIC-δ13C、SO42--δ34Sと源泉水の影響の可能性の検証と、H2O-δ18Oの年間を通じた一定の推移の経過観測を行う。また、SO42--δ34Sは、源泉から下流にかけて急激な減少傾向が認められ、源泉水中の硫化水素の酸化によって生じたものと考えられるため、新たに硫化物の硫黄同位体比分析を加えて、同位体のマスバランスによって検証を試みる。 令和2年度では、既に採取済みの現生トゥファ試料と古トゥファ試料を用いて、トゥファ年輪方解石δ13C‧δ18O‧δ34Sの高分解能分析を本格的に進めていく。分析試料は高い空隙率(約40%)を持つため、低圧化のデシケータ内で超低粘度エポキシ樹脂を浸透させ固める。分析試料の高分解能サブサンプリングは、マイクロドリルを用いて行う。そしてトゥファ方解石のδ13C,δ18Oは炭酸塩-IRMS分析、δ34SはS-IRMS分析により地球研(京都市)にてそれぞれ行う。尚、使用したエポキシ樹脂のδ13C,δ18Oとδ34Sについては、炭酸塩-IRMS及びS-IRMS分析に影響が及ばないことを前年度に確認済みである。S-IRMS分析では、分析試料中の硫黄含有量を予め定量しておく必要がある。また、試料中の硫黄含有量に応じて、分析試料量が決められるため、多量のサンプルを必要とすることが考えられる。この場合には、塩酸処理によって方解石から硫黄を抽出し、BaCl2によるBaSO4固定法でのS-IRMS分析法で対処する。
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Causes of Carryover |
トゥファ試料の安定同位体比測定を次年度の回したために、その測定費が次年度使用額が生じた。
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Research Products
(4 results)