2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K21679
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西村 智朗 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (70283512)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 科学的知見 / 気候工学 / デジタル配列情報 / 国際法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①遺伝資源のアクセスおよび利益配分に関する「デジタル配列情報(DSI)」および②気候変動に対処する「気候工学(geoengineering)」を研究素材として、地球規模の環境問題に対応する多数国間環境協定において、自然科学上の知見(以下、科学的知見)が、どのように受容され、適用されているかを検証し、国際環境法における科学的知見の役割と条約システム上の課題について提言することを目的とする。 この研究により、科学的知見が多数国間環境協定に受容されるプロセスと結果の検討を行い、併せて科学的知見と多数国間環境協定の融合可能性を検証することにより、実際の国際交渉およびその結果としての国際立法における科学的知見の役割を明らかにする。 3年間の研究期間の初年度にあたる今年度は、①については生物多様性条約、②については気候変動枠組条約の事務局ホームページから、必要な資料を収集するとともに、検討すべき論点整理を行った。 これらの作業の精度を高めるために、①については、8月に東京大学で行われた高麗大学およびKorea Research Institute of Bioscience and Biotechnology (KRIBB)の研究チームおよび国立遺伝学研究所の専門家と懇談し、DSIに関する最新の研究動向について、情報交換を行った。 ②については、現状分析を国際法外交雑誌に公表するとともに、12月に開催された気候変動枠組条約の第25回締約国会議(マドリッド)に参加し、気候工学に関する締約国およびステイクホルダーの関心について現在の動向を探った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多数国間環境協定における科学的知見の受容と対応を検討するために2つの素材を取り上げている。そのうち、①遺伝資源のアクセスおよび利益配分に関する「デジタル配列情報(DSI)」の研究については、欧米の研究者による分析および各国の意見が少しずつ集まってきたが、名古屋議定書の締約国会議での議論はあまり進んでいない。これは、先進国と発展途上国の意見対立が存在するためであると考えられるが、各々の正当化根拠として、自然科学者の知見がどのように影響しているかを今後検証していく必要性がある。 ②気候変動に対処する「気候工学(geoengineering)」の研究については、パリ協定に明文規定がないことにより、気候変動条約およびパリ協定の締約国会議での議論もまだ十分ではない。他方で、生物多様性条約および海洋投棄規制条約議定書では、気候工学に抑制的な決議および規程が採択されており、多数国間環境協定の間で対応に違いが見られる。 これらの問題を解決できるかはなお不明であるが、国連環境計画(UNEP)の下で2019年3月に開催された国連環境総会(UNEA)では、気候工学に関する検討が開始されており、多数国間環境協定を横断する問題への対応として検討対象に加えることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、気候変動条約の第26回締約国会議がグラスゴー(英国)で、および生物多様性条約の第15回締約国会議が昆明(中国)で、それぞれ開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、前者は延期が決定し、後者の延期も確定的である。これらの会議に出席し、会議の動向をフォローするとともに専門家からのヒアリングを行う予定であったが、今後の会議の開催状況を見据えて柔軟に対応する必要がある。いずれにせよ、会議が中止される可能性は少ないため、両条約事務局からの情報に留意し、会議に参加した上で、国際立法交渉における科学的知見の役割を確認したい。 また、7月に韓国で予定している高麗大学校およびKRIBBとの研究会や国内での研究者とのヒアリング活動についても、先方の開催に向けた方針を尊重しつつ、年度内に代替の知見の交換を含めて調整する。 これらの活動に加えて、欧米での学術動向を確認するために、関連文献および国際文書の収集と整理を行い、環境保全のための国際立法作業の中で、自然科学の知見がどのように影響を与え、政策決定に作用しているのかについて検証する。特に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)といった科学者集団から構成される機関の作業や成果文書について優先的に資料収集を開始したい。
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Causes of Carryover |
研究費の執行が予定よりも少額となったが、これは、共同研究をおこなっている高麗大学およびKRIBBのメンバーが日本に来訪する機会にヒアリングを行ったこと(併せて共同研究会を行った)、および当初予定されていた気候変動条約の第25回締約国会議がサンディエゴ(チリ)からマドリッド(スペイン)に変更されたことなどによるものである。 今年度は、気候変動条約および生物多様性条約の締約国会議が開催される予定である。当初、生物多様性条約の締約国会議(中国・昆明)のみの参加を計画していたが、気候変動条約の締約国会議(英国・グラスゴー)にも参加することを計画している。 いずれの会議も新型コロナウイルス感染症拡大により、延期の可能性が高いが、条約で明記された会議であることから、中止になることは想定されていないので、事務局からの情報を随時収集し、柔軟に対応する。
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