2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K21697
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (60330164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村上 裕太郎 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 准教授 (30434591)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 取引記録分析 / 仕訳データ / 可視化 / 有向グラフ / ビッグデータ / 複式簿記 / グラフ理論 / ネットワーク分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,企業の日々の取引記録である仕訳データを体系的に分析する方法を構築することである。これまでバランスシートや損益計算書などの財務諸表を用いた企業活動の分析(財務諸表分析)は行なわれてきたが,近年はクラウド会計の進展もあり,日々の取引データを用いた分析(取引記録分析)が注目されつつある。企業の会計データは複式簿記と呼ばれる数学(行列・グラフ理論)と親和性の高い形式で記録されている。したがって,行列を用いて会計データを表したうえで,その特徴を明らかにすることができれば,企業活動の新しい分析方法を提示することができる可能性がある。 (1)2020年度はまず,大阪府茨木市にある製造会社の協力を得て,2年分の仕訳データを入手した。理解の難しい仕訳については当該会社の社長に話を聞き,仕訳の理解を深めている。この作業は2021年度も継続する。 (2)財務諸表情報から仕訳金額を推定する方法についても検討した。仮想の仕訳ではなく,実際の企業の財務諸表データから仕訳金額を推定した。2020年度にケース教材を公表予定であったが,現在,作成途中である。2021年度中には授業で用いるケースとして執筆し、公表予定である。財務諸表から仕訳を類推することで、新しい簿記教育の一つとなる可能性がある。 (3)仕訳情報を用いることで,企業の生産関数や費用関数の推定に役立てることもできるのではないかと考え,理論・実証の両面で考察を進めている。また,仕訳情報の分析をミクロ経済学的に進めることで,近年注目されている,不正会計予測の理論的基礎付けに挑戦することも考えている。 (4)時間軸に沿って分析する動的ネットワークに関する最近の研究についてサーベイしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で示した4点に分けて進捗状況を評価する。 (1)大阪・茨木市に本社のある製造業1社との研究については2020年2月以降,新型コロナウイルスの問題から,訪問することを自粛していた。2020年度後半になり,この状況が長引くなかで,どうにか会社社長と会うことができ,2年分の仕訳データを入手した。今後はオンラインでの会合を進めて行く予定である。以上から,データ入手は予定よりやや遅れていると判断した。 (2)財務諸表情報から仕訳金額を推定する方法については,2020年度にケース教材を公表予定であったが,現在,作成途中である。2021年3月には,クラウド会計ソフトfreee社社長佐々木氏,および北國銀行・代表取締役・杖村氏と,共同研究者である村上准教授の授業で議論しており,内容の準備は進んでいる。2021年度中には授業で用いるケースとして執筆し,公表予定である。以上から,ケース執筆は予定よりやや遅れていると判断した。 (3)仕訳情報を用いた企業の生産関数や費用関数の推定については,理論面の検討を行った。(1)のデータを用いた推定までは進んでいない。この取り組みは当初は予定していなかった内容であり,2020年度途中から取り組み始めたもので,進捗状況の判断はできない。 (4)動的ネットワークに関する最近の研究については,十分な時間が取れず,サーベイはあまり進んでいない。このため,遅れていると判断している。 以上4点から,全体としては,「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要で示した4点に分けて今後の予定を示す。 2021年度はまず,(1)で指摘した仕訳データをまずは理解することを徹底する。対象としている企業特有の仕訳データがあり,当該会社社長とのオンライン会合によって,不明点を明らかにしていく。その後,異常仕訳の検知,可視化を統計ソフトRとCytoscapeを併用して進める予定である。また,財務諸表情報から仕訳金額を推定する方法についても,このデータに適用する。仕訳金額が判明しているため,どのような推定方法による場合に,実際の金額に近くなるかも評価できると考えている。 (3)と(4)についても,統計ソフトRとCytoscapeを併用して、可視化とネットワーク分析の理解を進めていきたい。(3)についてはミクロ経済学を専門とする先生の協力も得て,実施していきたい。 (2)については2021年度前半に教育用ケースを作成・公表予定としている。
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Causes of Carryover |
2020年度に開催・参加予定としていた学会および研究会について,コロナウイルスの問題から非開催となったものが多数あり,これに対応する予算を繰り越すことになった。2021年度の開催予定はまだ不明な学会・研究会が多いが,オンラインを含め、開催予定となっているものも多くあり,これらの学会・研究会への参加費に充当する予定である。
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