2019 Fiscal Year Research-status Report
Study on the Schelling's Paradox of Global Warming and Altruism
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19K21706
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤尾 健一 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (30211692)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
厚見 恵一郎 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (00257239)
山崎スコウ 竜二 大阪大学, 先導的学際研究機構, 特任講師(常勤) (10623746)
駒井 章治 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (50420469)
千葉 清史 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60646090)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 世代間利他主義 / 地球温暖化問題 / 超長期問題 / 徳倫理学 / 脳科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年計画の1年目として、研究メンバーおよび外部研究者に、各専門分野から、利他主義や衡平性に関係する話題を報告してもらい、知識と課題の共有を図った。それらには次のような研究報告が含まれる。(1)宇佐美 [1] 等を基礎とした、世代間正義をめぐる倫理学の諸主張の整理と各説に対する批判、問題点の指摘。(2)Scheffler [2] の「将来世代のことをわれわれ現在世代が心配するのはなぜか?」の紹介。(3)本研究が世代間衡平や利他主義の問題に対して実証的なアプローチをとることに関する基礎的な問い:事実の問いと規範の問いは区別できるか、そして、事実の問いは規範の問いの解決に役に立つか、に関する考察。(4)世界に対する人の認識が、感覚器からIoT技術まで物的媒介物を介して行われるという理解を前提として、新たな技術(メディア技術)と人間の相互発達、および遠隔操作型アンドロイド等の技術に誘導される利他主義についての実証的考察。(5)共感を題材に、情動伝染等原初的共感に関する脳科学分析と視点取得等高次共感に関する認知科学的分析の違いと総合化の可能性の検討、(6)Phaff [3] のAltruistic Brain Theory に対する脳科学的検討。(7)選好に関する経済実験の紹介。
[1] 宇佐美誠[2016]「世代間正義の根拠と目標」、楜澤能生編『持続可能社会への転換と法・法律学』、早稲田大学比較法研究所叢書。 [2] Scheffler, Samuel [2018] Why Worry About Future Generations? Oxford UP. [3] Phaff, Donald. W. [2015] The Altruistic Brain. How We Are Naturally Good. Oxford UP.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画上想定していた、利他主義に関する哲学、政治哲学的知見および自然主義的脳科学的理解を共有し深めることができたことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画における問い、および1年目に得られた知見をさらに深化させる。 本研究は、「実証的に利他主義を考察し、選好や効用関数は現在世代によるパターナリスティックなものとみなす」ことを基本的アプローチとしている。このアプローチ自身の妥当性を検討することは研究の基底的課題である。その検討として、規範の問いに答えるにも結局は「道徳的直観に沿うか」という事実の問いが持ち出されること(千葉, 2020)に注目し、衡平性に関して、原理に対する道徳的直観と具体的判断におけるそれとの乖離、およびその調停方法を研究する。 また本研究は、道徳的直観の根拠として、徳倫理学的相対主義と、脳科学や認知科学に基づく自然主義を想定している。前者に関連して、衡平性の哲学の諸アプローチの整理検討(厚見, 2020)をさらに進めることで、相対主義的アプローチの妥当性を議論する。後者に関しては、脳科学が扱う生物学的生理学的問題と利他主義のような高次の概念の間の乖離(駒井, 2020)をさらに検討し、乖離を埋める研究のあり方について議論を深める。後者の認知科学的アプローチでは、IoT等を介してヴァーチャルなものと区別のつかない他者やモノの存在のリアリティが、生きられた世界でどのように形成されるかの検討(山崎, 2020)をさらに進め、検証可能な仮説を抽出する。これは本研究の問い「他者が、(1) 目の前に存在している、(2) 実在するが現前しない(例:海外の困窮者)、(3) 未だ存在しない(例:将来世代)、(4) 既に存在しない(例:先祖)といった違いに応じて、利他的行動にどのような違いが生じるのか」に関わる課題である。 以上の議論と経済モデル、経済実験との関係を明らかにする。(引用はいずれも未公表の研究報告レジメを指す。)
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:COVI-19 パンデミックにより2月、3月に予定していた研究会を中止したことによる。 使用計画:2019年度末に予定していた研究会の開催を研究計画に追加する。ただし2020年度も研究会を遠隔会議の形式で行うことが予想され、研究打合せ旅費や招聘旅費の支出は計画を下回ることが予想される。研究の進捗によっては、試行的な実験やデータ収集に節約された研究費を充てることを考えている。
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