2021 Fiscal Year Research-status Report
いじめを巡る学校・子ども・保護者関係の変容と重大事態調査を行う第三者委員会の課題
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19K21762
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野田 正利 大阪大学, 人間科学研究科, 名誉教授 (60169349)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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Keywords | いじめ / いじめ防止対策推進法 / 第三者委員会 / 保護者対応 / 重大事態 / 聴き取り / コンプライアンス / 学校紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.「いじめ防止対策推進法」(平成25年法律第71号)は、施行から8年が経過しているものの、依然として、その防止等に重大な責務を負う学校現場では、この法律の趣旨とともに文部科学省が別に定めた「いじめ防止等のための基本的な方針」や「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」の意味内容が、正確に浸透しておらず、いじめの「被害者」側のみならず「加害者」側からも、教職員の不手際を指摘する声があがり、各地でトラブルが多く発生するようになっている。このトラブル対応にあたる教職員も疲労困憊し、学校全体の機能の遂行に多大の支障が出る事態となっている。 2.法律の仕組みを学んでいる子ども(保護者)の意識の高さと、その理解さえもおぼつかない教職員の乖離は、「いじめの発見」もさることながら、その後の「事実関係の調査」と「措置のあり方」(第23条)において、そのケースごとで「訴える子ども(主として保護者)の声の大きさ」によって、その後の展開が大きく左右されることで、ますます混迷の度を深めている。 3.本来的には子どもの世界ではいくらでもある摩擦やいざこざという「私的領域」であった部分に、強硬的に法律を割り込ませたことで、重大な人権侵害行為だけでなく、実に軽微な、また意図しない行為をも「いじめ」と認定されることが進み、子どもの人間関係が窮屈なものとなりつつある。「謝る」「許す」「仲直りする」といった教育的解決が後方に退き、すべてにわたって法的な解決を余儀なくされることで、収束の行方はほとんど「被害者」側の意向次第となっているといっても過言ではない。 4.重大事態を扱う第三者委員会も、その報告書作成にあたって、客観的で中立的な根拠資料に基づいて結論が導かれることが難しくなり、加害者・被害者のいずれからも情報を得られず、もっぱら学校が収集した情報に頼らざるをえない傾向が強くなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.「いじめ」が起因したと思われる自殺(未遂)や不登校に関する裁判事例については、判決文を入手し分析にあたってきた。また「いじめ重大事態」に関する調査をおこなう第三者委員会の報告書、さらに再調査となった場合の報告書についても、情報開示請求制度を通して収集に努めてきた。 2.研究代表者は、過去3年間にわたって、とりわけ現地調査を重視して、いじめ問題を契機にして大きな紛争状態に発展している学校現場数校を訪問して、その具体的内実を調査するとともに、専門家として多くのアドバイスをおこない、コンサルテーションを重ねてきた。学校名を掲載することは避けるが、北海道、青森、宮城、静岡、岐阜、愛知、京都、大阪、高知、島根、熊本など、私立学校を含めて10数校の小中高校に出向き、時には電話で経過観察を含めた関わりを持ちながら、研究テーマの遂行にあたってきた。 3.「やや遅れている」と書かざるを得なかったのは、研究代表者が所属する大阪府は、2021年度において最も長い期間「緊急事態措置」や「まんえん防止措置」がとられたため、県境を越えての移動が制限されることで、研究データの蓄積のための上記「2」の具体的な現地調査が大幅に遅れたことによる。 4.それでも今年度の研究成果としては、連載中の「内外教育」誌(時事通信社発行)において「いじめ法の放置から8年」というシリーズタイトルで、12回にわたって論文として発表してきた。またコロナ禍のために、当初予定されていた半数ほどは中止を余儀なくされたが、研修会講師として「いじめ防止対策推進法の下での学校・子ども・保護者関係の変容~特に注意すべき聴き取りの仕方と記録化」といったテーマで、全国各地の教育委員会や教育センターおよび学校で講演をおこなうことで、研究成果の社会への還元に努めてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.研究課題の遂行の期間延長措置を申し出たが、それはコロナ禍の拡大と延長によるやむを得ないものであった。残された期間を有効に使いながら、いじめを契機としたトラブルが発生している学校現場に直接に足を運び、関係する教職員からそれぞれのトラブルケースの具体的背景や進展状況を聴き取りながら、研究テーマの遂行に務める。 2.これまでの研究で、やはり明確になったのは、現行の「いじめ防止対策推進法」における「いじめの定義」(第2条)があまりにも広く措定され、被害者側の主観を重視し「いじめられた」と感じれば、即この法律の規定に沿って学校がすべて動かざるをえないことに、相当の無理があるということである。加えて、ある子ども間の出来事が「いじめ」と認定されることそのものよりも、被害者側、加害者側の「保護者」がいきりたち、子どもたち同士で解決する道を閉ざすように、トラブル状態を拡大させていく傾向が本当に高くなったということである。そしてSNSの多様な発達によって、仮想空間が増え、直接に対面しない形でのメッセージのやりとりが頻繁になった。このため、教職員による「いじめの予防」そのものが不可能になり、発見=すでに深い傷を負ったいじめ、という事態を招いている。 3.ところが、この法律は「すべての処理」を学校がおこなうよう規定している。23条の規定は、すべて「学校は」を主語としているため、教職員は頭を抱えている。本来的には、いじめ防止対策推進法を、現実に沿ったものに改正すべきだが、議員立法のために、まったく改正の動きがない。そこでせめて本研究が果たすことのできる使命は、「いじめの発見」「いじめの事実関係の調査」「いじめの認定とその後の措置」について、この法律と文科省が定めた各種のガイドラインの趣旨を踏まえつつ、教職員向けの、わかりやすいQ&A方式の資料集を作成することではないかと考える。
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Causes of Carryover |
1.研究代表者は、過去3年間にわたって、とりわけ現地調査を重視して、いじめ問題を契機にして大きな紛争状態に発展している学校現場数校を訪問して、その具体的内実を調査するとともに、専門家として多くのアドバイスをおこない、コンサルテーションを重ねてきた。学校名を掲載することは避けるが、北海道、青森、宮城、静岡、岐阜、愛知、京都、大阪、高知、島根、熊本など、私立学校を含めて10数校の小中高校に出向き、時には電話で経過観察を含めた関わりを持ちながら、研究テーマの遂行にあたってきた。 2.しかしながら、研究代表者が所属する大阪府は、2021年度において最も長い期間「緊急事態措置」や「まんえん防止措置」がとられたため、県境を越えての移動が制限されることで、研究データの蓄積のための現地調査が大幅に遅れたことで、十分なデータを得ることができなかった。 3.研究の延長申請をした次年度では、上記の「1」の現地調査を十分に遂行できるよう努める。 4.また、いじめ防止対策推進法には多くの課題が内在していることで、多くの学校現場が対応に苦慮している実情があり、「いじめの発見」「いじめの事実関係の調査」「いじめの認定とその後の措置」について、この法律と文科省が定めた各種のガイドラインの趣旨を踏まえつつ、現実の学校現場の実情に沿った教職員向けの、わかりやすいQ&A方式の資料集を作成することを想定している。
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