2019 Fiscal Year Research-status Report
オートリンガル時代における言語運用能力像の構築と新学習戦略の実践
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19K21790
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
片田 房 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70245950)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | オートマルチリンガル / サイバー・リンガ・フランカ / 国際母語デー / 母語による公教育の重要性 / 英語一極集中 / 言語多様性 / デジタル化時代の多言語運用能力像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、国際共通語としての英語によるコミュニケーション能力が強く求められている理工系科学技術者に対し、英語一極集中とは対照的・挑戦的に生じている事象(I-III)を提示し、其々にまつわる解明事項の調査研究を遂行してAI-技術の飛躍的な進歩を視野にいれた新しい言語運用能力像を提示することを目的に、三つのステージを想定している。 (I)ユネスコが喚起する多様な言語の尊重と母語による公教育の重要性; (II)英語圏に顕在化し易い発達性ディスレクシア(特に音韻性読み書き困難); (III) コミュニケーション能力の脆弱な自閉性傾向のある人口の増加。本研究の第一ステージにあたる2019年度(初年度)は、上記事象(I)を中心に、次の二つの解明事項 <(I-1) 母語による学校教育の重要性> 及び <(I-2) 母語多様性尊重の実態>に取り組んだ。 教育心理学及び言語認知発達心理学における文献と先行研究調査を確認した。特に、思考の発達において言語の果たす役割を強調するヴィゴツキー理論が「母語による学校教育とどう絡むのか」という設問に対し、言語意識アンケート調査表を独自開発し、フィリピン共和国を例とする多言語使用地域の言語意識調査を実施すると共に、現地の初等教育前半のカリキュラムと日本の初等教育で使用される教科書を比較調査し、一定の見解を提示した。母語の多様性の尊重は、学校教育においては非現実であるという実態が浮き彫りになった。 また、言語と抽象的・論理的思考力の相関性をみる新しい指標の構築を目指して、古今東西のノーベル賞受賞者全員の言語背景をデータサイエンスの手法を使って調査する試みを開始した。 更に、本研究の主要テーマである自動翻訳機・通訳機の普及度と性能の実態調査を日本語・英語・フランス語の三言語を中心に行うと共に、本研究の提示するビジョンを国際学会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次年度に完成を持ち越した事案(データサイエンスの手法による古今東西のノーベル賞受賞者全員の言語背景の調査、南米(ボリビア・サンタクルス地区)の日系社会における継承言語とスペイン語による学習熟達度の調査、タガカウロ語の古代文字による辞書の原型の開発等)があるが、計画した解明事項はほぼすべてに着手しており、おおむね良好な進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、2020年度(次年度)にその完成を持ち越した上記事案の解明を完成させる。 第二に、本研究が提示する第二の事象―(II)英語圏に特に顕在化し易い発達性ディスレクシア(特に音韻性読み書き困難として顕在化する学習障害)―にまつわる次の二つの解明事項<(II-1) 発達性ディスレクシアが顕在化し易い言語の構造>及び <(II-2) 非英語圏における英語学習者の英語苦手意識とディスレクシアの関連>を中心とする研究活動(①~⑥)を遂行する。 ①代表的言語リズム(ストレス型英語圏、シラブル型フランス語圏、モーラ型日本語圏)の観点から、ディスレクシア発症率の差異の調査を各言語圏において実施する。②英語に特有の韻律構造を解明し、英語圏に音韻性ディスレクシアが顕在化し易い理由を言語構造の観点から理論化する。③英語苦手意識との関連性を精査し、非英語圏の英語教育が注意すべきことの啓蒙促進を世界的に展開する。また、④理工系学生の英語苦手意識調査を実施し、⑤ポータブル自動翻訳機・通訳機の普及度の調査を継続すると共に、⑥理工系学生の気質に合った効率的な英語カリキュラムの構築に着手する。
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Causes of Carryover |
研究代表者は、所属研究教育機関より2019年度特別研究期間制度の適用を受け、海外の研究機関に滞在して研究する機会が確保されたため、自らが研究遂行事項に直接携わることができ、人件費・謝金の支出を抑えることができた。 また、着手した研究遂行事項の中で、完成を次年度(2020年度)に持ち越す事案(データサイエンスの手法による古今東西のノーベル賞受賞者全員の言語背景の調査及び南米-ボリビア・サンタクルス地区-の日系社会における継承言語とスペイン語による学習熟達度の調査)があり、次年度使用に持ち越した。CORVID-19災禍の状況に左右される事案であるが、次年度に持ち越した額はこれらの事案の遂行に使用する。
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Research Products
(6 results)