2019 Fiscal Year Research-status Report
実験室ラットの表情認知の神経基盤研究に基づく表情機能の進化的起源の探求
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19K21805
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高野 裕治 東北大学, スマート・エイジング学際重点研究センター, 准教授 (00424317)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中嶋 智史 広島修道大学, 健康科学部, 講師 (80745208)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 表情 / 神経基盤 / 進化 / ラット / 扁桃体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では実験室ラットの表情認知の神経基盤を解明し、表情機能について進化的に議論するための土台を構築するものである。初年度はラット行動実験の準備として、飼育環境、表情認知装置のセットアップ、脳局所破壊実験の準備を進めることができた。飼育環境および表情認知装置については、先行研究で実施されたものと同質に再現することができた。局所破壊についても本研究課題がターゲットとする扁桃体の局所破壊ができる環境構築ができた。次年度に本実験を推進するための準備を全て終えることができた。 さらに、ラットの表情認知について、社会的な分脈の経験により、表情認知能力が変化するという成果を取りまとめることができた。現在、論文として投稿され、査読中である。この知見が公刊に至ることで、ラットは表情を表出し、認知し、社会機能として活用するというところまで知見が出揃ったこととなり、今後、表情についてラットと人との類似性を議論することがますます可能となるであろう。 本研究課題の前提する萌芽的な問題背景として、表情の進化的起源を探ることがある。この点については、日本心理学会において、関連シンポジウムを開催し、魚類における表情機能についても議論することができた。これにより、少なくとも脊椎動物においては表情を議論する準備が進んだ。この他にも、多様な種における表情の問題を議論することができ、ヒトにおいても、今後において多様な動物研究と比較して表情を取り扱うことができる行動課題に関する論文投稿をすることができた。このように、表情の進化的起源を探るための理論構築およびコミュニティ作りも進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間内にラットの表情認知実験における扁桃体局所破壊実験を推進するために、初年度のうちにラット飼育環境、行動実験セットアップ、脳局所破壊手術の準備まで進めることができた。このため、2年目に本実験を推進させ、3年目(最終年度)に論文成果をまとめるペースで進んでいると考えられる。また、ラットにおける表情認知に関する行動実験について、社会的な過去体験により表情への識別能力が影響をうけるということも発見し、論文の投稿を進めることもできており、対象とする動物行動に関する知見を深めることもできた。このプロセスが順調であったため、前述した破壊実験の本実験には初年度中には進まないようにして、論文作成に集中して取り組んだ。この論文公刊によりラットは表情を表出、認知、さらには社会的機能までもが科学的に示されたこととなり、表情についての進化的な連続性を主張できるようになる。また、表情機能を種を超えて議論する準備として、学会シンポジウムでは魚類における表情の可能性を議論した。表情には少なくとも脊椎動物における連続性が想定できそうであり、本研究課題の理論的背景も深めることができた。ヒトとの比較をする上で有意義な行動実験についても、本研究課題の問題意識から派生する形で論文投稿することもできた。これらより、おおむね順調に進呈していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度にあげた成果に基づき、ラットの表情認知課題における扁桃体局所破壊実験を実施することで、表情認知の神経基盤の解明を進める。研究推進が円滑に進む場合は、扁桃体の局所破壊に加えて、島皮質についても検討を加えるようにする。脳局所破壊実験が円滑に進み、ラットの表情認知において扁桃体の神経活動の寄与が示唆されてきた場合は、神経活動を記録する推進方策も議論する必要があるだろう。また、学会等の科学コミュニティでの成果報告により、より多様な手法で本メカニズムに迫れるようになることが理想的でもある。国内外での積極的な成果発信は重要である。 本研究課題では、先行研究の豊富な痛み表情を対象としているが、ラットとヒトにおいて、他にどのような表情機能が比較しうるかについても検討することはメカニズムを検討する上でも今後重要となろう。本課題では、まず痛み表情を用いたが、ポジティブ情動においても、ラットとヒトが比較できるようになることで、表情機能の理解がより深まるだろう。また、ラット以外の動物を対象とする研究者と積極的に情報交流することでも、表情の進化的理解を深化させることができると考えている。このような広がりを見せることで、表情を支えるメカニズムについても、新たなターゲットが見出せると考えている。
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Causes of Carryover |
初年度の予算計画として、動物行動実験経費を見積もっていたが、実際にはその準備段階までの進捗となったため、その分が次年度の使用へ回された。これは研究活動の遅延や変更ではなく、本テーマに関連する論文に先に取り組んだためであり、研究計画および予算計画において、研究期間全体においての変更は生じていない。
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Research Products
(1 results)